上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ4 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 16】

絞扼性小腸閉塞・小腸壊死.Strangulated obstruction with necrosis








図4で左右結腸とも虚脱し拡張しているのは小腸だけだから小腸閉塞である.麻痺性イレウスでは多くの場合右側結腸も小腸と同様の液状内容物で拡張する.肝臓周囲(図1:※)に大量の,骨盤腔(図12〜図15:※)に少量の腹水があり,ガストログラフィンを含まない拡張した腸管はgaslessで,腸間膜の浮腫があり(図9と図10:▲),絞扼性小腸閉塞の可能性が高い.Closed loopを証明すれば確定診断となる.図15の1を頭側へ追跡すると図12の28で,Aは図10のFで閉塞し,図9と図10に虚脱した小腸(SB)がありclosed loopが証明された.図9〜図11の↑は単純閉塞の腸管のbird’s beak signで丸数字1から図2の丸数字10へと頭側へ拡張していく.図14と図15のU字型の小腸の壁は一見よく造影されたように見えるが,図Aの単純CTで既に高濃度を呈しており(白矢印),出血性壊死の腸管なのである(図B).絞扼性小腸閉塞を疑うが診断困難な場合,経鼻胃管またはイレウスチューブからガストログラフィンを投与後CT撮影すれば単純閉塞の腸管と絞扼性小腸閉塞の腸管との鑑別が容易となり,極めて有用な検査法である.腸管液で薄まることを予測して5〜10倍程度(例:300mlの生食水に60〜30mlのガストログラフィン,単純閉塞腸管の腸液が多いようであれば5倍)に希釈して300〜500ml投与後2,3時間後にCT検査を行う.










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文献考察:腸閉塞・絞扼性小腸閉塞
1)四方淳一 三東野寛治,三浦誠司:イレウス(総論).腹壁・腹膜・イレウスの外科II 新外科学大系 25B,中山書店,東京,205−258,1990.
要旨:イレウスとは,「腸管内容の肛門側への輸送が障害されることによって生ずる病態」をいう.イレウスの分類は表1,2が我が国では一般的である.

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2)【イレウス診療のpitfall いつ外科に送るか】 イレウスの病態とその鑑別
  Author:沖永功太(帝京大学 医学部外科), 安達実樹, 味村俊樹, 松田圭二
  Source:臨床消化器内科(0911-601X)19巻9号 Page1221-1228(2004.07)
 
要旨:イレウスは,腸管内容の通過が障害された状態と定義され,わが国ではイレウス(ileus)と腸閉塞(intestinal obstruction)はほぼ同義語として用いられてきた.英語圏では,一般的にparalytic ileus(麻痺性イレウス)を意味する言葉として用いられている.ここでは「イレウス」を,わが国での伝統的な用語として閉塞性と麻痺性の両者を含めた意味で用いることとした.イレウスはさまざまな原因によって起こり,多様な病態が含まれる.
 イレウスは機械的イレウスと機能的イレウスとに分けられ(表3),また,小腸と大腸のイレウスは,診断および治療面でも分けて考えた方が実際的である(表4).さらに単純性イレウスか複雑性(絞扼性)イレウスかで治療の緊急度が異なり,両者を鑑別することは重要な問題である.
 機械的イレウスは腸管および腸管外の器質的病変によって腸管の狭窄ないし閉塞をきたした病態であり,イレウスの中でも最も中心的な病態である.機械的イレウスの原因は,小腸イレウスの大多数は癒着性であり,大腸では大腸癌が最も多い.
 機能的イレウスは腸管の狭窄や閉塞をきたす器質的病変はないが,腸管内容の通過が障害された状態であり,大部分は麻痺性イレウスである(表5).

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3)【イレウス】 総論・診断 定義・分類
  Author:杉山貢(横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター), 森脇義弘
  Source:救急医学(0385-8162)24巻7号 Page749-751(2000.07)
要旨:腸閉塞の定義に明確なものはないが,腸管内容のうっ滞,逆流に基づく諸病態をさし,本来は機械的閉塞起点を有する病態(intestinal obstruction)のことをよぶ.一方,イレウス(ileus)とは,本来は腸管麻痺による著しい腸管拡張と腹部膨満をを主症状とする病態をさす用語である.分類法は表6.
 血行障害の有無で,血行障害を伴う絞扼性腸閉塞と,血行障害を伴わない単純性腸閉塞に分類される.
  【参照症例】   1. 右下腹部痛シリーズ3 【症例 RE 11】

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