外傷(Trauma)シリーズ7 EXPERT COURSE 解答 【症例 TE 32】

横隔膜刺創・偽陽性遊離ガス.Stab wound of diaphragm with false positive pneumoperitoneum






図2と図3のGは腹腔内遊離ガスである.図6〜図8で横隔膜の一部(↑)が描出されており,その内側のガス(G)は遊離ガスである.図6と図7の△は肝鎌状靱帯だからその周辺のガスも遊離ガスと理解できる.図5〜図8の肝周囲の液貯留(※)は図7と図8で横隔膜(↑)外だから腹水ではなく胸水である.大量の腹腔内遊離ガスを認めたので試験開腹手術を行った.腹腔内臓器損傷は全くなく,左側横隔膜に1cm大の刺創(図A:▲)を認めるのみであった.左側の胸腔穿刺で薄い血性胸水を認めたが気胸はないので肺損傷はないものと判断した.術後は合併症なく順調に経過し20日で退院した.横隔膜に欠損があると吸気時の陰圧が直接腹腔内に及び腹壁刺創部から空気が吸引され大量の腹腔内遊離ガスが発生したと思われたが,気胸がないのは不自然である.






参考症例(pneumopericardium):21歳男性.自殺目的に包丁で胸骨直下を刺した.剣状突起部に5cm大の刺創(図1)を認めたが,活動性の出血はない.Vital signsは安定しており,心窩部に軽度の圧痛を認めた.図2と図3は同部位.
心嚢内気腫( pneumopericardium :↑)と少量の液貯留(△)を認めるが,気胸,胸腔内出血や肺損傷はない.試験開腹で腹腔内臓器の損傷もないことが確認された.その後のエコー検査で心嚢内液貯留の増加は認めなかった.刺創部から心嚢内にも空気が吸いこまれる現象を示している.







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文献考察:鋭的外傷患者診療のalgorithm
原田尚重,須崎紳一郎:知っておくべき外傷患者の初期治療:腹部外傷患者の初期診療,外科治療vol.91(5),p557-566.2004(11).
追記:図は著者らが示す鋭的外傷患者診療のalgorithm.救急診療指針(監修:日本救急医学会,へるす出版,2003.)

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