上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ18 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 88】

回腸末端の悪性リンパ腫.malignant lymphoma of ileum




図5と図6の盲腸(C)と下行結腸(D)は拡張していない,小腸だけの拡張だから小腸閉塞である.図2の1は気泡と食物残渣の混合物で,小腸内に存在する場合“小腸内糞便(small bowel feces)”と呼ばれるもので,小腸閉塞の閉塞部を示すことが多い.小腸内糞便図2の1を尾側へ追跡すると図11の10でUターンして図9の12となる.図10から前壁の肥厚が始まり(△),図7と図6で腫瘤となり完全閉塞をきたす病変がある(△)が,壁の造影は強く,不整であり悪性腫瘍を強く示唆する.図2の白矢印は腫大したリンパ節であろう.図2の回腸末端(TI)を図3のaから追跡すると図5のeとなり閉塞病変へつながるので,部位は盲腸から10〜15cm前後の回腸末端である.図4〜図8の↑は虫垂であり6mm以上に腫大しているが壁の造影は強くなく,周囲の浮腫所見もないので急性虫垂炎と診断するには不十分な所見である.手術および病理所見:盲腸から10cmの部位で,リンパ節の腫大を伴う腫瘤があり,malignant lymphoma(diffuse large B-cell)による腸閉塞であった.








参考症例(回盲部悪性リンパ腫):64歳男性.4ヶ月前から時々一時的な上腹部痛がある.1ヶ月前に腹部エコー検査で回盲部周辺にリンパ節腫大を認め精査を勧めたが拒否された.前日に上腹部痛が再発し来院した.体温:36.4℃,右下腹部に7,8cm大の,弾性硬の腫瘤を触れ,軽度の圧痛を伴う.Aは上行結腸で盲腸は図5のCだが,図6〜図11の↑は盲腸と回腸末端の壁肥厚を示す病変である.長さは20cm前後と思われ,全周性の病変で,均一に造影される.図4〜図6の▲は腫大したリンパ節である.全周性の20cm前後の病変にしては閉塞所見(小腸拡張)がなく,伸展性のある病変だから悪性リンパ腫を強く疑う.図Aの白矢印が病変でNon-Hodgkin’s lymphoma,diffuse large B-cell typeであった.













文献考察:小腸,大腸の悪性リンパ腫143例(図)
【大腸のリンパ増殖性病変の現状 悪性リンパ腫を中心に】 病理 小腸, 大腸の悪性リンパ腫の病理学的特徴
  Author:大島孝一(福岡大学 医学部病理)
  Source:早期大腸癌(1343-2443)8巻5号 Page369-377(2004.09)
追記:消化管原発悪性リンパ腫は, 節外性リンパ腫のもっとも多くを占め, その大半が非ホジキンリンパ腫(NHL:Non-Hodgkin's lymphoma)で, ホジキンリンパ腫は非常にまれである. また,消化管悪性腫瘍の約1-2%が悪性リンパ腫とされていて, NHL全体からすると約10%が消化管原発とされている. 臓器別では胃が最も多く, 次いで小腸, 大腸の順で, 食道のものはまれである.

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  【参照症例】   1. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ20 【症例 RR 98】
2. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)6 【症例 GE 29】

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