上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ30 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 150】

回腸特発性穿孔.膿瘍形成による腸閉塞.Idiopathic perforation of ileum with abscess formation and small bowel obstruction



図4〜図6で盲腸(CE)と下行結腸(DC)は虚脱しており,拡張しているのは小腸だけだから小腸閉塞である(麻痺性イレウスでは右側結腸も小腸と同内容物で拡張を示す).図12の1とAを頭側へ追跡すると1は数字順に頭側へ展開するが,Aは図8のEで閉塞する.図9〜図12で↑病変は他の拡張した小腸とは内容物が違い,上下で盲端になるから腸管ではなく,壁の強い造影効果を考慮すると膿瘍と解釈すべきである.骨盤腔内腸管(S状結腸,直腸または小腸)の穿孔による膿瘍形成と,膿瘍による小腸閉塞との診断となる.手術で盲腸から20cmの部位の回腸穿孔(図A),膿瘍形成と膿瘍への癒着による小腸閉塞を認めた.病理:穿孔をきたしうる腫瘍性病変や血管病変を認めず,idiopathic perforation.







参考症例(空腸潰瘍穿孔):47歳男性.特記すべき既往歴はない.2時間前,排便後急に激しい上腹部痛が出現し救急搬送され,救急室で数回嘔吐した.体温:36.3℃,心窩部に圧痛を認めた.








結腸(A:上行結腸,T:横行結腸,D:下行結腸)が液状内容物で拡張しているのは肛門側に閉塞病変を認めない(画像省略)ので麻痺性イレウスであろう.図1〜図7で遊離ガス(▲)があり消化管穿孔の可能性が極めて高い.空腸は図12の1から始まり頭側へ上行するが,図9の4〜図9の9は壁肥厚を示し,病変を有する可能性がある.手術でTreitz靱帯直下の上部空腸の穿孔を認めた.図Bで△は潰瘍で,↑が潰瘍穿孔部.病理:非特異性空腸潰瘍.






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文献考察1):小腸穿孔の原因と疾患(表1)
イレウスが初発症状となった特発性小腸穿孔の1例
  Author:東崇明(村瀬病院 外科), 久保宏幸, 村田哲也
  Source:臨床外科(0386-9857)59巻8号 Page1073-1078(2004.08)
  Abstract:72歳男.腹痛と嘔吐を主訴とした.腹部X線で中等量の小腸ガス像を認めイレウスが疑われたが,free airはなかった.イレウスチューブからの小腸造影で小腸のほぼ中央にtaperingを認め,この部位の用手圧迫にて狭窄部分から造影剤のminor leakageを認めた.また,腹部CTで造影剤の腹腔内への漏出を認め,小さなfree airもみられた.穿孔性腹膜炎と診断し,同日緊急手術を施行した.正中切開で開腹したところ膿性腹水を多量に認め,小腸のほぼ中央に直径6mm大の穿孔を認めたが,異物はなかった.穿孔部分を含めて約20cmの小腸を切除した.小腸の穿孔した部位はpunch-out状であり,穿孔部腸管壁に潰瘍や憩室,腫瘍などの肉眼的病変を認めなかった.病理組織学的所見で多数の炎症細胞と線維芽細胞を認め,漿膜面にフィブリンの付着が見られたことから,特発性小腸穿孔と診断した.術後に創感染を生じたが保存的に軽快し,術後28日目に退院となった.

文献考察2):特発性小腸穿孔,本邦集計37例(表2,表3)
特発性小腸穿孔の1例
  Author:杉本誠一郎(赤穂中央病院 外科), 萱野公一, 宮崎医津博, 西岡聖, 内田發三
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)64巻1号 Page107-110(2003.01)

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