上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ30 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 149】

後膵十二指腸動脈・前膵十二指腸動脈繊維形成異常症による動脈瘤破裂.Ruptured aneurysm with fibromuscular dysplasia of posterior pancreaticoduodenal and anterior pancreaticoduodenal artery.









MDCT(multidetector CT)による造影CTである.図2〜図14の▲は内部不均一な軟部組織で,後腹膜の血腫の可能性が高い.出血源と思われる唯一の病変は,図7でPIPDA(後下膵十二指腸動脈)が軽度の拡張を呈している(↑)ことである.図3でIVCが虚脱しており,来院時の血圧低下は,頻脈はなくても出血性ショックであることを強く示唆する.図Aと図BはMDCTによる血管造影(CT angiography)で,↑はPIPDA(後下膵十二指腸動脈) の,白矢印はAIPDA(前下膵十二指腸動脈)の動脈瘤を示している.AIPDA:前下膵十二指腸動脈,ASPDA:前上膵十二指腸動脈,CA:腹腔動脈,GDA:胃十二指腸動脈,GEA:胃大網動脈,HA:肝動脈,IMA:下腸間膜動脈,PIPDA:後下膵十二指腸動脈,PSPDA:後上膵十二指腸動脈,RA:腎動脈,SA:脾動脈,SMA:上腸間膜動脈,SMV:上腸間膜静脈,Du:十二指腸,H:膵頭部.手術で同所見が確認され,血管剥離中に腫大したPIPDA(後下膵十二指腸動脈)が容易に破裂を起こし,その破裂による後腹膜出血の可能性が極めて高いと判断された.両動脈瘤切除を行い,病理検査で線維筋性形成異常(fibromuscular dysplasia)と報告された.線維筋性形成異常とは,動脈の狭窄に至る自然発生的な非アテローム性動脈硬化.一般には腎動脈および高血圧症に見られる.2つの異型は線維筋過形成および動脈の中膜外層に起こる線維症である(ステッドマン医学大事典,Medical View社,第5版第4刷,2005年).









拡大画像を見る

拡大画像を見る
参考症例(5mmスライスを1スライスおき,中結腸動脈瘤破裂):77歳女性.前日の10時間前に,急に左季肋部痛を認め近医にて入院,翌朝になって血圧が低下してきたので紹介来院した.血圧:120/45mmHg,脈拍:131/分,体温:36.5℃,上腹部から臍左側にかけて圧痛を認めた.図1〜図4,図9〜図11はearly phase,図5〜図8,図12〜図14はdelayed phase.








delayed phaseの図5〜図8の↑,図12〜図14の↑は内部構造がやや不均一で,血腫の可能性が高い.図9と図10,図12と図13で△はdelayed phaseで形態を変えず同じ大きさで残っており,輪郭が鮮明で球形を呈しているのでextravasationではなく動脈瘤であり,図4と図8,図9〜図14の▲は正常血管であろう.出血部位の血管名は不明だが.動脈瘤破裂による腹腔内出血である.図Aと図Bの血管造影でaccessory middle colic arteryの動脈瘤(白矢印)が発見され,手術で中結腸動脈からの出血を認めた.病理:中結腸動脈瘤破裂,血管炎の可能性がある.








文献考察1):膵十二指腸動脈瘤(pancreaticoduodenal artery aneurysm)58例の集計(表1,表2).平均年齢は48歳,男性に多く,fibromuscular dysplasiaによるものは2%のみ.
Ann Vasc Surg. 1996 Sep;10(5):506-15.
Uncommon splanchnic artery aneurysms: pancreaticoduodenal, gastroduodenal, superior mesenteric, inferior mesenteric, and colic.
Shanley CJ, Shah NL, Messina LM. PMID: 8905073

文献考察2):Abdominal Apoplexy(腹部卒中)
胃特発性abdominal apoplexyの1例
  Author:伊東功(東海大学医学部附属大磯病院 外科), 向井正哉, 向山小百合, 田島隆行, 中崎久雄, 幕内博康
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)64巻12号 Page3048-3051(2003.12)
  Abstract:69歳男.主訴は突然の臍周囲の激痛.血圧は60mmHgとショック状態で,軽度の貧血と著明な腹膜刺激症状が認められた.腹部CT検査上,腹腔内出血と胃体部後壁に壁外に突出する腫瘤が認められた.上腸間膜動脈閉塞症や絞扼性イレウスの可能性も否定できず,緊急手術を施行した.開腹時,腹腔内に約800gの血液及び凝血塊の貯留が認められたが,出血源は確認できなかった.胃後壁にテニスボール大の腫瘤を触知したため,網嚢腔を開放すると,GISTを疑わせる直径約6cm大の粘膜下腫瘍様の腫瘤が腹腔内に穿破したような所見が認められたため,この部分を全層で楔状胃部分切除術を施行した.組織学的には嚢胞状の病変は漿膜下に位置しており,肥厚した繊維瘢痕組織と部分的に器質化した血餅に覆われていた.嚢胞内は血腫で充満されており,明らかな腫瘍細胞や露出血管は認められず,器質化した動脈瘤と考えられた.術後合併症は認めず,第7病日より経口摂取開始後,経過は良好で術後17病日に軽快退院となった.
要旨:Abdominal apoplexyは, 突発性の腹腔内の血管性病変による大量の腹腔内出血, 梗塞などの症状の総称である. 広義には外傷, 子宮外妊娠や肝癌などの破裂も含まれるが, 狭義には原因不明の腹腔内出血または腹腔内の動脈瘤, 静脈瘤などの血管性病変の総称である. 腹部の2次あるいは3次動脈の破綻による出血がほとんどで, 原因として限局性の動静脈奇形, 動脈瘤の形成や動脈壁の脆弱化があげられているが, 原因不明の場合も多い.
  【参照症例】   1. 上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ13 【症例 EE 62】
2. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ16 【症例 RE 77】

 【 ←前の問題 】   【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】