上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ26 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 129】

横行結腸間膜脂肪織炎.Mesenteric panniculitis of transverse colon




図7の1〜図5の21は横行結腸であり,虚脱し壁肥厚を呈している.図6〜図14の↑は濃度上昇を示す脂肪組織であり,横行結腸が図16まで下垂し,その頭側に位置するので横行結腸の腸間膜である.不均一な濃度上昇,境界はやや不鮮明で,横行結腸の壁肥厚所見から横行結腸間膜脂肪織炎である.抗生物質投与で10日間で症状が消失した.大腸ファイバー検査で異常を認めなかった.








参考症例 1(上行結腸間膜脂肪織炎):60歳女性.24時間前からの右季肋部痛と発熱のため来院した.食欲減退はなく下痢もない.体温:37.9℃,腹部は右季肋部に軽度の圧痛があるのみ.
↑は上行結腸間膜の濃度上昇を示し,上行結腸は腸間膜側だけ浮腫性壁肥厚を示し(▲),典型的な腸間膜脂肪織炎である.絶食,抗生物質投与と輸液で1週間で症状が消失した.9日目の大腸ファイバー検査で異常を認めなかった.












参考症例 2(10mmスライスを1スライスおき,後腹膜脂肪肉腫の横行結腸間膜浸潤):59歳女性.半年前からの食欲不振と,10kgの体重減少,数日前から発熱があり来院した.△が後腹膜脂肪肉腫で,▲は肉腫の浸潤による横行結腸間膜腫瘤.








文献考察:腸間膜脂肪織炎(mesenteric panniculitis)
子宮附属器炎が契機と考えられたS状結腸間膜脂肪織炎の1例 症例報告及び本邦報告例の検討
  Author:石川正志(国立高知病院), 西岡将規, 花城徳一, 菊辻徹, 宮内隆行, 三木久嗣
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)22巻3号 Page589-593(2002.03)
  Abstract:41歳女.子宮筋腫の手術予定中に,左下腹部痛の増強で入院した.下腹部正中に筋腫様の腫瘤と臍左方に圧痛を伴う腫瘤を触知した.貧血と白血球,CRPの上昇がみられた.腹部超音波で腫瘤は高エコーと低エコーが混在し,CT,MRIでは腫瘤は不整形に造影され,注腸造影ではS状結腸に鋸歯状の壁不整がみられ,S状結腸間膜あるいは後腹膜の炎症性腫瘤と診断し開腹手術を施行した.子宮全摘後,S状結腸間膜内の腫瘤を含めS状結腸切除術を行い,左子宮附属器周囲の炎症を認め,左卵管を合併切除した.病理組織所見では腫瘤部に黄色肉芽腫様の炎症所見と脂肪変性が認められ,卵管の炎症所見からみて,本症例は子宮附属器炎が原因で腸間膜脂肪織炎が誘発されたと考えられた.
追記:本邦では自験例を含め83例が報告されている.性別は男性59例, 女性24例で, 発症年齢は11歳から81歳にわたり, 平均52.3歳であった.症状は腹痛, 腹部腫瘤, 発熱が最も多く, イレウスを呈し ,嘔吐や腹部膨満がみられることもある.病変部位は大腸57例, 小腸26例で大腸に多く, このうちS状結腸が38例と全体の43%を占めた.治療は開腹術が66例(80%)に行われ, 内訳は腸管切除40例, 人工肛門造設8例, 生検18例であった.保存的治療は14例に行われ, 抗生剤, ステロイド, 免疫抑制剤などの投与がなされている.

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