文献考察1):孤立性上腸間膜動脈解離(isolated superior mesenteric artery dissection),本邦集計21例(表1) 上腸間膜動脈解離の1例
Author:小鹿雅博(岩手医科大学 医学部救急医学講座), 佐藤信博, 八重樫泰法, 鈴木泰, 小野寺誠, 藤野靖久, 井上義博, 斎藤和好, 遠藤重厚
Abstract:55歳男.突然の上腹部痛を主訴とし,腹部超音波で上腸間膜動脈内の血流に偏りを認めた.腹部造影CTで上腸間膜動脈起始部から左腎静脈レベルまでの上腸間膜動脈内に約4cmに渡る解離を認め,末梢側は造影されなかった.鎮痛剤無効の上腹部の強い自発痛,圧痛と腹膜刺激所見,CT所見より,急性腸間膜虚血を疑い緊急手術を行った.腸管の色調は正常であったが,回腸末端から口側約40cmまでの回腸が浮腫状で蠕動の低下を認めた.虫垂切除を行い虫垂動脈を切離すると,血流は低下しているものの血流を認めた.腸管壊死への進展の危険性を考え開腹のままICU入室し,発症より18時間後に腸管の虚血性変化を認めなかったため閉腹した.第2病日にmultidetector-CT(MDCT),血管撮影を行い,上腸間膜動脈は第2空腸枝を分枝後より動脈解離により完全閉塞しているものの,側副路により腸管の血流は保たれていた.術後2ヵ月のMDCTにて上腸間膜動脈第2空腸枝より末梢への血流の再開を認めた. 追記:年齢は42歳から71歳,平均:57.3.男女比は19:2と圧倒的に男性に多い.診断の根拠となった画像検査はCTが20例,血管撮影14例,腹部超音波検査が8例であった.治療は10例(48%)に保存的療法,11例(52%)に外科的治療がなされていた.手術に至った理由は,破裂2例,動脈瘤形成2例,抗凝固剤の効果不良3例,腸管虚血4例であった.破裂および腸間膜虚血の理学的所見,血液検査および画像所見に注意しながら厳重な経過観察を行い手術の必要性を判断すべきである.
2)上腸間膜動脈解離,本邦集計32例(表2,3) 上腸間膜動脈解離の1例
Author:渡邉泰治(聖マリアンナ医科大学 一般外科), 木村加奈子, 佐藤良太郎, 狩俣洋介, 月川賢, 窪田倭
Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)66巻10号 Page2582-2586(2005.10)
Abstract:症例は55歳,男性.突然の腹痛と下痢で発症.下腹部を中心にBlumberg徴候を伴う圧痛あるも筋性防御は認められなかった.腹部造影CT検査で上腸間膜動脈根部から約2cmの部位に動脈解離を疑わせる内腔の線条構造が認められた.その3cm遠位側に完全閉塞を認めた.遠位空腸から回腸にかけて広範囲に腸管の壁肥厚と腸管の造影効果が不良で広範囲の小腸虚血を疑わせる所見があった.手術所見は,トライツ靱帯から約50cmの空腸から末梢へ60cmにわたりやや浮腫状の腸管壁の肥厚を認めた.しかし腸管壁の色調は保たれており強い虚血を示唆する所見は認められなかった.SMAの拍動は確認できなかったが虚血所見がないために腸管への血流は保たれていると判断し腸切除はせず閉腹した.術後半年の造影CTでは解離腔は真腔では血流は保たれており,偽腔では血栓が形成され血管径の拡大は認められなかった.大動脈解離を伴わない上腸間膜動脈解離は本邦では1989年から2005年まで31例が報告されているのみである.大動脈解離を伴わない上腸間膜動脈解離を経験したので報告する(著者抄録).
3)Endovascular stentによる治療も可能
Radiat Med. 2005 Nov;23(7):520-4. Endovascular stent placement for isolated spontaneous dissection of the superior mesenteric artery: report of a case.
Miyamoto N, Sakurai Y, Hirokami M, Takahashi K, Nishimori H, Tsuji K, Kang JH, Maguchi H.
Spontaneous dissection of the superior mesenteric artery (SMA) is rare and has been reported only sporadically. The therapeutic options are either a surgical approach, which is the most frequently adopted, or simple observation. We present a patient with acute abdominal pain due to superior mesenteric artery dissection who was successfully treated by percutaneous endovascular stent placement.PMID: 16485545(full text)
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