文献考察:アメーバ赤痢(amoebiasis)
感染症症候群(II) 原虫症 アメーバ赤痢
Author:吉川晃司(東京慈恵会医科大学 第2内科), 相楽裕子
Source:日本臨床(0047-1852)別冊感染症症候群II Page423-426(1999.02) 要旨:赤痢アメーバ症(amoebiasis)は, 赤痢アメーバ原虫(Entamoeba histolytica)の感染によって起こる疾患と定義される. 熱帯・亜熱帯地方に広く分布する疾患であるが, 近年男性同性愛者間に広く流行し, 性感染症としても重要な位置を占めている. 世界中で約4.8億人の感染者がいると推定され, 年間少なくとも約10万人が本症で亡くなっており, これは原虫感染症としてはマラリアに次ぐ死亡数である. 我が国でも熱帯・亜熱帯地方への海外渡航者の増加, 男性同性愛者間での流行により本症は増加傾向にある.次の3つに分類される.1)腸管アメーバ症(intestinal amoebiasis)(アメーバ赤痢など):E. histolyticaが経口感染の後, 大腸粘膜に侵入し, 粘膜を破壊することにより発症する. 病変は大腸に局在する. 2)腸管外アメーバ症(extraintestinal amoebiasis:アメーバ性肝膿瘍(amoebic liver abscess)など):腸管アメーバ症の大腸病変部位からE.histolyticaが血行性転移し, 肝臓, 肺, 脳などに膿瘍を形成する. 3)無症状嚢子保有者(シストキャリアー(asymptomatic cyst carrier) ):最も多く, 全体の90%以上を占めるが, 最近の知見によるとその多くが非病原性のE. disparによる感染例と考えられている. E. dispar は組織侵入能力をもたないため感染しても何の症状も現さない.ハイリスクグループとして以下があげられる.(1)男性同性愛者間での性感染症(oral-anal sexual contact) : 欧米先進国における男性同性愛者症例の大部分がE.dispar感染によるシストキャリアーであるのに対し, 我が国の男性同性愛者症例にはE. histolytica感染例が流行しており, 有症状例が多い. (2)発展途上国(熱帯・亜熱帯)からの帰国者:成熟嚢子に汚染された食物, 飲料水から感染する. (3)重症心身障害児収容施設での集団感染:便こね, 異食といった異常行動が原因となる.
腸管アメーバ症は比較的徐々に発症し,粘血便,下痢,腹痛を主症状とする.放置すれば多くの場合自然に症状が消失し無症状となるが,慢性化する例も少なくない.慢性腸管アメーバ症では比較的軽度の粘血性下痢,腹痛などが持続,または不定期に繰り返される.アメーバ腫(アメーバ肉芽腫:ameboma)が形成され,通過障害を起こすことがある.
診断は,糞便検査(必須), 大腸内視鏡検査, 血清学的診断法を併用し, 総合的に診断する. 確定診断は糞便または大腸粘膜生検材料からの原虫の検出による. 粘血便を伴う症例ではアメーバ赤痢を考え, 糞便検査は繰り返して行う(最低3回以上)必要がある. 大腸内視鏡検査は有用性が高く, 糞便検査で原虫が検出されない場合診断の決め手となることが多い. 腸管アメーバ症はアメーバ性肝膿瘍に比べ, 血清抗体価陽性率は低く必ずしも当てにならない.
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