上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ23 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 111】

腹直筋鞘血腫.Rectus sheath hematoma




図5〜図11の腹直筋内腫瘤(↑)は内部構造が不整であり,腫瘍か血腫と判断するが,腹部エコー検査でも同様な所見であった(図A:▲).病歴で咳発作後に出現した腹痛だから,腹直筋鞘血腫(rectus sheath hematoma)と診断する.安静のみで3日間で症状が消失した.




参考症例(Plain CT,腹直筋鞘血腫):63歳男性.1週間前から咳を伴う風邪をひき,咳き込んだ後右上腹部痛が出現した.体温:36.3℃,右上腹部に圧痛を伴う腫瘤を触れる.
図1〜図5の△は腹直筋内腫瘤であり,上記症例同様,腹直筋鞘血腫と診断する.安静のみで腫瘤は消失した.
腹直筋は内胸動脈の分枝である上腹壁動脈と,外腸骨動脈の分枝である下腹壁動脈の2本の動脈支配を受け,静脈は同名のものが腹直筋の背側を走行している.腹直筋鞘血腫はこれらの動静脈の破綻か,筋線維の断裂からの出血による血腫を形成する.腫瘤を触れるとき,頭を持ち上げさせ腹直筋を収縮させても腫瘤が消失しないFothergill’s sign,仰臥位でも坐位でも腫瘤が触知可能でかつ移動性がないBouchacourt’s signが有用なことがある.







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文献考察:腹直筋血腫本邦報告142例の検討(表)
腹直筋血腫の1例および本邦報告142例の検討
  Author:豊田泰弘(神戸大学 大学院医学研究科環境応答医学講座災害・救急医学), 川嶋隆久, 石井昇, 宮崎大, 岡田直己, 高橋晃, 中村雅彦, 大森裕
  Source:救急医学(0385-8162)29巻5号 Page622-625(2005.05)
  Abstract:42歳女.腹筋運動をしていたところ,急激に左下腹部に疼痛を伴う腫瘤が出現した.左下腹部に径約6cmの腫瘤を認めた.腫瘤は正中線を越えず,その部分に一致して圧痛と反跳痛を認めた.腹部CTで左腹直筋内に56×40mmの凸レンズ状の腫瘤と腹水貯留を認めた.腹部超音波検査で腹直筋に連続して径約6cm,辺縁明瞭で内部構造の不均一な腫瘤と腹水貯留を認めた.腹筋運動を契機に発症した腹直筋血腫と診断し,安静と疼痛コントロールによる保存的治療を行うこととした.入院後,腹膜刺激症状は徐々に消退し,7日後にはほぼ消失した.症状,画像所見ともに軽快傾向にあることを確認し,引き続き療養のため発症8日後に転院となった.発症14日後に子宮頸癌のフォローアップも兼ねて腹部MRIを施行し,血腫と考えた.子宮頸癌の再発・転移を示唆する所見は得られなかった.
  【参照症例】   1. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ5 【症例 RR 21】

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