上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ21 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 104】

胃蜂窩織炎.Phlegmonous gastritis








胃は粘膜下浮腫による全胃的な著明な壁肥厚を呈している.特に図11〜図14の前庭部では胃壁の浮腫性肥厚が著明で(△:実は壁内膿瘍),図13と図14では周囲脂肪組織の炎症性所見を伴い(▲),通常の胃炎とは異なる病変を示唆している.内視鏡検査で(図Aと図B)胃は全体的に発赤し浮腫状で伸展不良を認めた.発熱と心窩部痛は軽減せず,5日目に左下肢に暗赤色の水疱が出現し急激に拡大していった.体温は34度台に低下,血圧も低下しまもなく永眠された.剖検にて胃壁は膿瘍となっていた.血培は陰性であったが胃壁内の膿,左下肢の壊死筋組織と水疱液からstreptococcus pyogenesが検出された.結局,診断はstreptococcal toxic shock syndromeに伴う胃蜂窩織炎phlegmonous gastritisである.
Bockus Gastroentcrology 5th edit.(P.807)から:胃蜂窩織炎phlegmonous gastritisは死亡率の高い胃壁の細菌感染症である.原因菌はα-hemolytic streptococci が最も多く,他にstaphylococcus,pneumococcus,E coli.等.全体的な死亡率は67%で,胃部分切除または胃全摘と抗生物質投与で20%.









参考症例(胃癌・胃壁内膿瘍):37歳男性.1週間前からの上腹部痛と発熱のため来院した.体温:38.0℃,左上腹部に圧痛を認めた.
図2〜図5でwater densityの内容物を含む胃病変(↑)を示している.胃癌病変は指摘できないが,図6〜図13の△は腫大したリンパ節の可能性が高い.胃透視検査で潰瘍性病変(図A:白矢印)と粘膜下腫瘍様の隆起性病変(▲)を認め,内視鏡検査と生検で潰瘍性病変は胃癌と診断された.解熱後胃切除を行ったが,病理検査で進行性胃癌と残存胃壁内膿瘍と報告された.














文献考察1):胃蜂窩織炎(phlegmonous gastritis)
感染症症候群 細菌感染症 消化管感染症 急性化膿性胃炎
  Author:長谷部哲理(東海大学 第2消化器内科)
  Source:日本臨床(0047-1852)別冊感染症症候群I Page480-482(1999.01)
要旨:急性化膿性胃炎(胃蜂窩織炎:phlegmonous gastritis)は,胃壁のびまん性あるいは限局性の,主に粘膜下層を中心に全層に広がる(細菌感染による)非特異性化膿性炎症疾患である.Konjetzny'は, 化膿性胃炎の成因を3群に分類している. すなわち, 胃粘膜の損傷部に直接細菌が侵入して発生する原発性, 他臓器感染巣からの転移による続発性および成因不明の特発性の3群である(表1). また, 臨床経過からは急性型, 亜急性型, 慢性型の3群に分類されるが, 急性型が過半数を占め, ついで慢性型, 亜急性型の順である. 感染経路としては胃粘膜の創から細菌の侵入による管内性感染と, 血行性感染がある. 起因菌はレンサ球菌が最も多く(70%),ブドウ球菌, 大腸菌, 肺炎球菌, 変形菌などである.本症の誘因としては慢性胃炎による胃酸分泌能の低下による胃内での殺菌能の減弱や, 胃粘膜再生能の低下による胃粘膜防御機構の破綻があげられる. このほか, 薬剤, アルコールの常用, 過労, 栄養不良, 外傷, 暴飲・暴食などの複数の因子が重なり発症するといわれている. 特に, アルコール常用者に発生することが多い.臨床症状は経過により, 急性型, 亜急性型, 慢性型に分類され, 急性型が最も多い. 急性型では発熱,悪寒・戦慄, 上腹部激痛, 悪心・嘔吐(吐物に膿や血液が混在することがある)などを認めることが多い. 炎症が漿膜に波及すると筋性防御, Blumberg徴候など腹膜刺激症状を呈するようになる. 坐位にて疼痛が軽減するか消失するというDeiningen's signが特徴的であるとされているが, 本症に特有の症状はなくほかの急性腹症をきたす疾患との鑑別は困難である. 慢性型は軽度の発熱, 心窩部痛, 食欲不振などの症状が持続し, 他覚所見としては上腹部に有痛性の腫瘤を触知することもある. 亜急性型は急性型と慢性型の中間型とされており, 慢性型の急性増悪例や中等度症状の持続例が含まれる. 患者の全身状態が許すかぎり外科的切除が望ましい.

文献考察2):胃蜂窩織炎
Gastrointest Endosc. 2005 Jan;61(1):168-74.
Phlegmonous gastritis: case report and review.
Kim GY, Ward J, Henessey B, Peji J, Godell C, Desta H, Arlin S, Tzagournis J, Thomas F.PMID: 15672083
要旨:報告例37例の集計で,死亡率は42%(手術例:20%,保存的治療例:50%).signs and symptomsは表2,起因菌は表3.外科的切除が最も生存率が高い.

文献考察3):胃壁膿瘍(gastric wall abscess),報告例18例
Gastrointest Endosc. 2003 Oct;58(4):627-9.
Intramural gastric abscess: case history and review.
Choong NW, Levy MJ, Rajan E, Kolars JC. PMID: 14560756
要旨:胃蜂窩織炎(化膿性胃炎)はdiffuse,localizedとmixed formsに分類されるが,localized formは”intramural gastric abscess”ともいわれ,5-15%を占める.18例の集計で,初診までに1週間前後の上腹部痛を訴えた例が多く,発熱の頻度は高くない(表4).まれにしか見られないが2つの特異的な症状があり,Deninger sign(背臥位より坐位で痛みが軽減する)と,膿汁を嘔吐することである.起因菌で最も多いのはStreptococcus(75%)で,次いでE.coli,Staphylococcus,Clostridiumなど.治療法と生存率は表4.

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