上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ20 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 99】

大網裂孔ヘルニア.Transomental hernia








最下段の図13〜図15で腹水があり(※),図5〜図8では腸間膜の著明な浮腫を示し(▲),図3〜図15の小腸(↑)は大部分が壁の造影不良を呈し,拡張はないが絞扼された小腸である.手術で大網裂孔ヘルニアを認め,約100cmの回腸が絞扼され虚血状態に陥っていた(図A)が,絞扼解除で改善したので切除は不要であった.








参考症例(大網裂孔ヘルニア):61歳男性.胃潰瘍と高血圧の治療中で腹部手術の既往はない.前日の夜から上腹部痛と嘔吐が出現し,12時間後に救急搬送された.体温:37.9℃,腹部全体に軽度の圧痛あるのみ.
図5〜図9に局所性に存在する腹水があり(△),図6と図7で腸間膜の浮腫を認める(▲)ので右側の小腸に注目する.図3のAと1から尾側へ追跡すると,図8のFと図9の7で閉塞するのでclosed loopを形成し,図10と図11で虚脱した小腸を認め,絞扼性小腸閉塞の可能性が高い.手術で大網裂孔ヘルニアを認めた(図A:↑).













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文献考察1):大網裂孔ヘルニア,本邦報告104例の集計(表1)
内ヘルニアと術前診断し得た大網裂孔ヘルニアの1例
  Author:野本一博(斎藤胃腸病院), 斎藤寿一, 吉田徹, 津澤豊一, 三浦二三夫, 塚田一博
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)61巻1号 Page193-197(2000.01)
  Abstract:84歳女.開腹手術の既往はない.右側腹部痛,嘔吐を主訴に,近医より紹介入院となり,腸閉塞と診断した.イレウス管造影で,トライツ靱帯より約150cmの小腸と,180cmの小腸に狭窄を認め,両部位は重なり合い,それよりも肛門側は造影されなかった.内視鏡検査,CT検査では明らかな腸閉塞の原因を認めなかった.以上より,内ヘルニアによる腸閉塞と診断し,開腹手術を施行した.トライツ靱帯より約170cmから約25cmにわたる小腸が,直径3cmの大網裂孔に嵌頓した小腸は,うっ血していたが,裂孔を切断し整復したところ,腸管の色調は回復したため,腸切除は施行しなかった.
追記:山口の嵌入様式分類(図:臨外 33:1041-1045,1978).

文献考察2):大網裂孔ヘルニア,本邦報告178例の集計(表2)
示唆に富む腹部CT所見を呈した大網裂孔ヘルニアの1例
  Author:石井要(金沢大学 大学院医学系研究科がん局所制御学), 西村元一, 宮下知治, 清水康一, 太田哲生, 三輪晃一
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)25巻3号 Page525-528(2005.03)
  Abstract:83歳男.74歳時にS状結腸癌にてS状結腸切除術の既往があった.今回,下腹部痛を主訴とし,強い筋性防御が認められ,腹部単純X線検査でニボーおよび拡張した小腸を認めた.腹部CT検査で腹水の貯留と小腸の拡張およびループ形成を認め,同部位の小腸は造影CTでは造影効果を示さず,血流に乏しい腸管であることが疑われた.絞扼性イレウスと診断し,緊急回復手術となった.腹腔内には血性腹水を450mlを認め,回盲弁から口側80cmより40cmにわたり小腸が大網裂孔をヘルニア門として嵌頓し絞扼され,大網の辺縁に近い部分に約2cm大の裂孔を認めた.大網裂孔ヘルニアによる絞扼性イレウスと診断し,絞扼を解除しても嵌頓小腸の色調が戻らなかったため,同部位の小腸部分切除と,裂孔を含めた大網の部分切除を行った.病理組織学的所見で悪性像は認められず,術後経過は良好である.

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