上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ20 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 98】

Winslow孔ヘルニア.Internal hernia through Winslow foramen








図1〜図4で大量の腹水があり(※),図2〜図13の腸管(↑)は壁の造影効果がかなり減弱しており,図5で腸間膜の浮腫または液貯留を示し(白矢印),絞扼された腸管である.図2で胃の小弯側に位置し(↑),図3〜図8で胃を背側から圧排しており網嚢内に位置するので内ヘルニアを強く示唆する.図5では腸間膜が右方へ収束し(▲),図10と図11では十二指腸(Du)を右側から圧排している(△)所見からWinslow孔ヘルニアによる絞扼性腸閉塞と診断する.図7で腎静脈合流部より頭側のIVCが虚脱しており強い脱水状態である.手術でWinslow孔ヘルニアが確認され,約40cm長の回腸が絞扼され壊死に陥っていた(図A).








拡大画像を見る
文献考察:Winslow孔ヘルニア,本邦報告例26例の検討(表)
Winslow孔ヘルニアの1例
  Author:川崎磨美(福井病院 外科), 上田順彦, 古屋大, 中川原寿俊, 吉光裕, 澤敏治
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)66巻3号 Page734-738(2005.03)
  Abstract:内ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断で緊急手術を施行した結果,Winslow孔ヘルニアの診断を得た1例を経験したので報告する.症例は45歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に来院した.来院時,腹部膨満,心窩部痛を認めるも筋性防御は認めなかった.腹部単純X線検査にて胃小彎内側で第一腰椎の高さに拡張した腸管ガス像を認めた.また腹部CT検査で肝左葉背側面,胃小彎および肝十二指腸間膜に囲まれた部分に拡張した腸管ガス像を認めた.保存的治療にて経過観察していたが,翌日筋性防御も出現してきたため絞扼性イレウスの診断で緊急手術を行った.開腹したところ回腸末端から30cmの小腸が約50cm,Winslow孔に嵌入していた.用手的に整復し腸切除は必要なかった.Winslow孔ヘルニアは腹部単純X線検査や腹部CT検査にて比較的特徴的な所見を呈することが多いため,原因不明のイレウスの診断の際には本症も念頭に置き画像を読影する必要がある(著者抄録).
追記:病因としては, 1)異常に大きなWinslow孔, 2)上行結腸の後腹膜への固定の欠如, 3)総腸管膜症の存在, 4)異常に大きな肝右葉, 5)小腸間膜の異常な過長などが挙げられており,これらに加えて腹圧の急激な上昇(怒責,重労働,大食いなど)が誘因となって発症すると考えられている. 自験例を含む26例の集計では, 年齢は8歳から84歳(平均45歳), 性別は男性13例,女性13例と性差はなかった. 主訴は腹痛, 嘔吐, 嘔気などのイレウス症状がほとんどで本症に特徴的なものはなく, 臨床所見から本疾患を診断することは困難である.本邦報告例のうち, 術前にWinslow孔ヘルニアと診断された症例は26例中11例で, イレウスと診断された症例は4例であった. 陥入臓器は小腸:22例,盲腸・上行結腸・回腸末端:2例,横行結腸:1例,胆嚢:1例であった.

 【 ←前の問題 】   【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】