図１〜図３に腹水がある（↑）．広範囲の小腸が粘膜下浮腫による3層構造（よく造影される粘膜，粘膜下浮腫と外側の造影される固有筋層）を呈している．A：上行結腸，D：下行結腸，S：Ｓ状結腸．腹水から糞線虫が検出され重症型の糞線虫症strongyloidiasisと診断された．髄膜炎と敗血症を合併し10日後死亡した．

参考症例（空腸糞線虫症・十二指腸潰瘍）：沖縄県に在住のシンナー常用の33歳男性．既往歴：2年前十二指腸潰瘍で手術（詳細不明）．数時間前に上腹部痛，嘔吐10回と下痢3回のため来院した．熱はなく，心窩部に圧痛がある．
図２〜図１５の空腸（↑）は粘膜下浮腫による壁肥厚を示している．図２〜図４で十二指腸球部も粘膜下浮腫による壁肥厚を示し（▲），十二指腸潰瘍か十二指腸炎を示唆する．内視鏡検査で（糞線虫とは無関係の）十二指腸潰瘍（A1）を認め，検便で糞線虫が検出された．空腸所見は糞線虫症と思われた．

文献考察１）：糞線虫症（strongyloidiasis）
【消化管感染症2002】　寄生虫性感染症　糞線虫症
　 Author：金城福則(琉球大学 第1内科), 座覇修, 平田哲生, 内間庸文
　 Source：胃と腸(0536-2180)37巻3号 Page437-441(2002.02)
　 Abstract：糞線虫症(strongyloidiasis)は糞線虫(Strongyloides stercoralis)によって起こる寄生虫感染症の1つである. 糞線虫はヒトに経皮的に感染し, 主に十二指腸や小腸上部に寄生する1〜2mmの小さな線虫であり, 我が国では亜熱帯地域に属する沖縄県を中心とする南西諸島が浸淫地である. 診断には普通寒天平板培地法が有用である. 糞線虫感染者は無症候性ないし軽症の場合が多く, 臨床上問題となることは少ないが, 宿主の免疫能が低下した場合等には重症化し, 死に至ることも少なくない. 治療薬としてはチアベンダゾールやアイバメクチンが有用である．
追記：糞線虫の感染経路としては, 主に足から経皮感染したF型幼虫は血流やリンパ流にのって心臓を経て肺へ移行し, その後肺胞壁の毛細血管を破り, 肺胞内に脱出し, 気道を上行して喉頭･咽頭を経て嚥下によって食道, 胃を通過し, 最終的に十二指腸や小腸上部に達し, その粘膜内に寄生し, 成虫に成熟すると考えられている. また, 糞線虫には特殊な感染方法として,１）通常は糞便とともに体外に排泄されるR型幼虫が排泄される前にF型幼虫となり, 腸管または肛門周囲から侵入し, 体内移行する自家感染(auto-infection), ２）自家感染を起こしている患者の免疫能が低下した場合などには虫体数が著明に増加する過剰感染(hype-infection), ３）過剰感染した糞線虫が通常のライフサイクルで通過する肺も含めその他の臓器に播種し, 腸管から持ち込んだグラム陰性桿菌などの腸内細菌群による敗血症や肺炎, 髄膜炎などを合併した場合の播種性糞線虫症(disseminated strongyloidiasis)などがある.

文献考察２）：糞線虫症の生活史と糞線虫症の病因（図）
【小児の感染症】　その他　糞線虫症
　 Author：座覇修(琉球大学 第1内科), 斎藤厚
　 Source：小児科臨床(0021-518X)52巻4号 Page673-676(1999.04)

文献考察３）：難治性の糞線虫症にivermectinの経直腸的投与が効果的．
Am J Trop Med Hyg. 2003 Apr;68(4):453-5.
Case report: Rectal adminstration of ivermectin to a patient with Strongyloides hyperinfection syndrome.
Tarr PE, Miele PS, Peregoy KS, Smith MA, Neva FA, Lucey DR.

Strongyloides hyperinfection syndrome may be complicated by paralytic ileus that interferes with the absorption of oral anti-helminthics. We report on the administration of ivermectin as a rectal enema preparation to a renal transplant recipient with Strongyloides hyperinfection syndrome and progressive ileus. Attempts at treatment using nasogastric albendazole and ivermectin were unsuccessful despite clamping the nasogastric tube after drug administration. Ivermectin tablets were ground to a powder, resuspended in a commercially available suspending agent, and administered per rectum. The suspending agent was chosen for its near-physiologic osmolality to allow longer retention, in contrast to many enema preparations that have a laxative effect. The patient improved markedly within 72 hours of initiation of the therapy per rectum and recovered fully. Ivermectin administered as an enema may be beneficial in patients with severe strongyloidiasis who are unable to absorb or tolerate oral therapy.PMID: 12875295（full text）