文献考察1):腸結石症(enterolithiasis)
消化管症候群 空腸,回腸,盲腸,結腸,直腸 腸結石症
Author:荒谷英二(日鋼記念病院), 新津洋司郎
Source:日本臨床(0047-1852)別冊領域別症候群6 Page446-449(1994.12) 要旨:腸結石症(enterolithiasis)は腸内の内因性異物である腸結石(enterolith)に起因する疾患である.腸結石症は, 生理的な腸内容物で形成される真性結石と, それ以外の下降結石, 下降胃石などの仮性結石に分類される.
1)真性結石:a)胆汁酸腸石 b)カルシウム塩腸石.2)仮性結石:a)下降胃石 b)食物塊, 食物繊維腸石,c)薬物, バリウムなどの沈殿物,d)腸内容の単なる濃縮,e)下降胆石.
腸管結石形成には腸内容の停滞する特殊な状態, すなわち憩室, 盲嚢, 狭窄などが必要とされ, さらに化学的因子が必要で, 化学的因子の相違により胆汁酸腸石とカルシウム塩腸石が形成されるとされる.
文献考察2):真性結石,本邦集計42例(表) 多発性小腸狭窄に合併した真性腸石の1例
Author:野中健太郎(りんくう総合医療センター市立泉佐野病院 外科), 岩瀬和裕, 山東勤弥, 位藤俊一, 三方彰喜, 水島恒和
Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)65巻9号 Page2368-2373(2004.09)
Abstract:真性腸石の本邦報告例は41例に過ぎない.多発性小腸狭窄に合併した真性腸石の1例を報告した.症例は55歳男性,主訴は腹痛.約10年前より腹痛及び腸管蠕動不全を繰り返したが,その都度保存的に軽快した.近医にて胆石症を指摘され当科紹介となった.腹部CTにて,小腸結石を2個認めた.手術当日再度CTを施行し,回腸末端部に1個の結石を確認した.胆石症および小腸結石の術前診断にて腹腔鏡補助下手術を行った.腹腔内に多発する小腸狭窄を認め,回盲部より約160cmの回腸狭窄部に腸石の嵌頓を認めた.消化管に瘻孔は認めなかった.腸石摘出後,胆嚢摘出術を施行した.腸石は最大径4cm,重量10gで,結石分析の結果から胆汁酸を主成分とする真性腸石と判断した.真性腸石過去報告例では,腸内容うっ滞を伴う憩室・狭窄・盲嚢の併存例が多く,自験例も多発する小腸狭窄が原因と考えられた(著者抄録). 本邦集計の要旨:腸石症の過去報告例は大部分が仮性腸石であり, 真性腸石は稀である. 自験例を加えた本邦における真性腸石報告例42例を検討した(表). 平均年齢は56.8±18.8歳で, 男性20例, 女性22例であった. 胆汁酸腸石は20例, カルシウム塩腸石が21例, 胆汁酸/カルシウム塩混成腸石が1例であった. 腸石の存在部位は, 回腸末端を含めた下部小腸が26例(62%)で最も多く, 上部小腸が9例, 十二指腸3例, 盲腸2例, S状結腸以下が2例であった. 結石成分と腸石の形成あるいは存在部位の関係をみると, 胆汁酸腸石は胆汁酸が腸内細菌叢の作用で変成をきたし, 酸性条件下で結石を形成することから, 十二指腸, 上部小腸で形成されることが多い. 一方, カルシウム塩腸石はアルカリ条件下に析出し炭酸カルシウム, リン酸カルシウムなどを含有し,下部小腸で形成される.本邦報告例において, カルシウム塩腸石21例のうち20例(95%)は下部小腸より肛門側に認められた. 胆汁酸腸石20例は上部空腸までが11例(55%)で, 9例(45%)で下部小腸より肛門側に認められた. 自験例においても,腸石は回盲部より160cm口側の回腸に存在し, 下部小腸でも比較的口側に存在しており, 結石成分とよく符合する結果であると考えられた. 真性腸石形成要因をみると, 狭窄が最も多く17例(40%), Meckel憩室6例を含めた憩室が11例(26%), 盲嚢3例, 回腸重複症1例, 回盲部癌1例, 先天性不完全鎖肛1例, 反復する腸重積症1例, 不明7例であった.
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