上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ17 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 83】

S状結腸癌.Sigmoid colon cancer




図5と図6で盲腸(C)と下行結腸(D)共に拡張しているので下行結腸を図7の1から肛門側へ追跡すると,図6の19のS状結腸で閉塞する.図10の15の↑から始まる,よく造影される壁肥厚が図7と図8で腫瘤となり(▲)完全閉塞をきたしていることが判明し,S状結腸癌による閉塞であろうとの診断となる.図9〜図11の△は壁内気腫であり,早期に何らかの方法で減圧すべきである.TI:回腸末端.図Aは注腸造影で,白矢印がS状結腸癌による狭窄部である.翌日Hartmann手術を施行した.病理:moderately differentiated adenocarcinoma.








参考症例(S状結腸癌):59歳男性.3日前から排便が無く,上腹部痛が出現し,当日になって腹痛が増強したので来院した.腹部は膨満しているが圧痛はなく軟.図1で上行結腸(A)が12cm近くまで著明に拡張し,下行結腸(D)が液状内容物で充満しているので図2の1から肛門側へ追跡すると,図13の18で閉塞する.図13〜図15の↑は造影効果が良好な壁肥厚と腫瘤を示し,癌であろう.図16の直腸 a から順に追跡すると図15のhで閉塞病変と連結する.内視鏡検査でS状結腸癌が確認され,挿入したガイドワイヤー(図A)を用いてイレウス管を留置し経肛門的減圧に成功した.

















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文献考察1):閉塞性大腸癌口側腸管の減圧法(表)
【大腸癌のすべて】 外科治療 大腸癌イレウスの治療
  Author:洲之内広紀(河北総合病院 外科), 森正樹, 服部正一, 村田祐二郎, 坂東道哉, 伊佐治寿彦, 田上創一, 田崎大
  Source:消化器外科(0387-2645)28巻5号 Page848-852(2005.04)
1)人工肛門造設:口側の腸管を人工肛門として挙上する方法である.減圧は確実で短時間で終了する利点はあるが, 手術操作が複数回に及ぶという欠点がある.
2)内視鏡的経肛門的イレウス管挿入:肛門から大腸内視鏡を挿入し, 狭窄部にガイドワイヤーを通し, さらに太いイレウス管をロ側腸管まで挿入し, 減圧を図る方法である.減圧後イレウス管を通して頻回の洗浄が必要になる.口側腸管をきれいに洗浄してしまうには不十分なことがある.手術まで肛門からチューブを出したまま歩行しなければならない.
3)内視鏡的ステント挿入:肛門から大腸内視鏡を挿入し, 狭窄部に専用のガイドワイヤーを通し, 金属製のステントを通し開く.挿入直後から口側の腸内容が排泄され, 減圧される.

文献考察2):経肛門的イレウスチューブの有用性と問題点,69例中63例(91.3%)に成功
【閉塞性大腸癌の治療】 閉塞性大腸癌における経肛門的イレウスチューブの有用性と問題点の検討
  Author:田中豊彦(滋賀医科大学 放射線科), 古川顕, 新田哲久, 山崎道夫, 高橋雅士, 村田喜代史, 井本勝治, 坂本力
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)25巻3号 Page499-504(2005.03)
  Abstract:独自に開発した経肛門的イレウスチューブを用いた治療法の技術的成功率,臨床的有用性,留置チューブによる合併症について,閉塞性大腸癌69症例を対象に検討した.69例中63例(91.3%)でイレウスチューブを適切な位置に留置することに成功した.失敗した6例(8.7%)は直腸からS状結腸の屈曲の強い部位における完全閉塞例で,二期的手術が施行された.留置成功例63例のうち5例(8%)に留置中のイレウスチューブによる腸管壁の圧迫穿孔が認められた.穿孔部位は4例がS状結腸,1例が横行結腸であり,穿孔時期はイレウスチューブ留置3日後が1例,4日後が1例,5日後が2例,7日後が1例で,いずれの症例も一期的腫瘍切除術が施行された.イレウスチューブ留置可能であった63例では,留置中の穿孔例,非穿孔例にかかわらず,大きな術後合併症はみられなかった.イレウスチューブを用いた経肛門的減圧術は,閉塞性大腸癌症例に対し最初に選択されるべき簡便で安全,低侵襲かつ効果的な方法であると考えられた.
  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)9 【症例 GR 42,43】
2. 下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 7 【症例 LR 33】

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