上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ17 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 82】

肝弯曲部結腸癌.Colon cancer of hepatic flexure








右側結腸(A:上行結腸,C:盲腸)は拡張し,図13〜図16で下行結腸(D)は虚脱しているので,壁所見の変化に気を付けながら上行結腸を図8の1から肛門側へ追跡すると図3〜図7の肝弯曲部で良好に,不整に造影される壁肥厚(↑)が認められ,その肛門側は虚脱した横行結腸(T)となる.従って横行結腸(肝弯曲部)癌による大腸閉塞と診断する.図17〜図20は経鼻的イレウスチューブ(▲)を挿入して3日目のCT.イレウスチューブ挿入時に少量のガストログラフィンを注入されたので拡張した腸管内腔は造影されている.問題はイレウスチューブを挿入して3日も経過したのに盲腸(C)が全く減圧されていないことである. TI:回腸末端.腸管は内圧上昇があると吸収機能が停止し分泌は継続するので効果的に減圧しないと拡張し続け穿孔をきたす.大腸閉塞による盲腸穿孔は瞬時に糞便性腹膜炎を引き起こす,極めて重篤な合併症である.イレウスチューブによる経鼻的減圧法は右側結腸閉塞でも4,5日以上かかることを示す症例である.幸いにもその後減圧され,10日目に手術を行った.病理:横行結腸癌.












参考症例(上行結腸癌):82歳女性.2年前から時々一時的な腹痛があった.数時間前に上腹部痛が出現し,今回は改善しないので来院した.結腸は右側(A:上行結腸,C:盲腸)だけ拡張しているので肛門側へ追跡すると図2〜図4に不整に,良く造影される壁肥厚と腫瘤を認める(↑).その中に高濃度の異物らしき構造物があり(△),それが狭窄部に嵌頓したために結腸閉塞を起こしたものと解釈する.TI:回腸末端.図Aが注腸造影で,辺縁不整の狭窄部(白矢印)と嵌頓した円形の異物(△)を示している.手術で上行結腸癌があり,周囲の腫大したリンパ節と一塊となり大きな腫瘤を形成していた.癌病変部には嵌頓した1cm大の乾燥剤を認めた.












文献考察:閉塞性大腸癌の特徴
【閉塞性大腸癌の治療】 閉塞性大腸癌のOver View
  Author:橋爪正(青森市民病院 外科), 木村昭利, 宮本慶一, 小野裕明, 吉田淳, 西隆, 柴崎至, 遠藤正章
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)25巻3号 Page495-498(2005.03)
閉塞性大腸癌の特徴:本邦における腸閉塞を伴う大腸癌の発生頻度は10%前後との報告が多いが, これらの用語の定義,解釈が報告者により若干異なるために1.5-23.8%と幅広く報告されている.人口の高齢化に伴い, 大腸癌にり患する患者数は明らかに増加している.一般に高齢者は右側結腸癌の比率が高く, 右側結腸癌は進行癌となるまで症状を発現しにくい.また,高齢者は症状を自覚しても早期に医療機関を受診することが少ないため発見が遅れやすい.1990年以前の報告と1990年以降の報告で, 腸閉塞を伴う症例の発生頻度に大きな差はなく, 閉塞性大腸癌の絶対数は今後も増加することが予測される.閉塞性大腸癌は管腔が広く血便などの症状で気付きやすい直腸に少なく, 腸管径が細く絞め付け(stricture)型に発育し, 便性が固形となる左側結腸が好発部位とされてきたが,癌占拠部位による差はないとする報告,右側結腸に多いとするものがある.一般に閉塞性大腸癌は非閉塞症例と比較して腫瘍径は大きく, 壁深達度は深く, リンパ管侵襲, 静脈侵襲あるいはリンパ節転移率が高いとされ, 臨床病期(stage)の進行したものが多い.右側癌で腹膜播種の頻度が高く,左側癌は血行性転移が多いとの報告がある.
  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)1 【症例 GR 1】
2. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)1 【症例 GR 3】

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