上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ17 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 85】

下行結腸癌・非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI:Non-0cclusive Mesenteric Ischemia)








図9〜図12で下行結腸(D)が液状内容物で拡張しているのでその肛門側へ追跡すると,図14で壁肥厚を示し(↑),図15〜図17で虚脱する(↑)が腫瘍性病変だと断言できる所見ではない.よく見ると下行結腸(D)は壁の造影効果を認めるが,右側結腸(A:上行結腸,C:盲腸)と横行結腸(T1とT2)の壁は造影効果が減弱しており,さらに図11〜図15の△は壁内気腫を示し,壊死または高度の虚血状態と解釈すべきである.来院時血圧は75/30mmHg,脈拍:120/分,図3と図4で(腎静脈が合流する直上の)IVCは極度に扁平化しており強い脱水による低血圧を呈している.拡張の程度(図13)は9cmほど(12cm以上が虚血・穿孔の可能性が高い)であるのに壊死または高度の虚血状態を呈している原因は強い脱水による非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI:Non-0cclusive Mesenteric Ischemia)と推測する.手術で下行結腸癌による閉塞を認め,癌病変より口側の全結腸と回腸末端が虚血状態を示し切除した.図Aで白矢印が癌部で,その口側は縦走潰瘍(▲)を主とした病変である.病理:moderately differentiated adenocarcinoma.口側結腸はischemic colitis compatible.











参考症例(横行結腸癌・閉塞性大腸炎):85歳女性.腹部手術の既往はない.最近便秘傾向になり,2日前黒色便があったが下痢はない.朝食後から間欠的な上腹部痛があり,まもなくして嘔吐を伴ったので来院した.体温:36.9℃,上腹部に軽度の圧痛がある.図1〜図8の上行結腸(A)と横行結腸(T1)は粘膜下浮腫による壁肥厚を呈し炎症性疾患か壁内血腫の可能性が高い.図7と図8で造影効果の強い狭窄病変(↑)を認め,図7の横行結腸(T2)で急に壁肥厚が消失するのは通常の腸炎や壁内血腫では考えにくい所見である.図7の↑病変は癌で,粘膜下浮腫で壁肥厚を示す上行結腸(A)と横行結腸(T1)は閉塞性大腸炎と診断する.図2でIVCは正常な大きさを示し脱水によるNOMIではない.図2と図3で▲部は全周性の粘膜下浮腫所見を呈すると推測するのが常識的と思うが,ガス周囲の腸管壁だけ壁肥厚を呈しない現象を時々経験することがあり詳細は不明である.病理: moderately differentiated adenocarcinoma.高齢者の結腸の腸炎所見では癌による閉塞性腸炎を鑑別することが大事である.









  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)8 【症例 GE 36】
2. 下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 9 【症例 LE 45】
3. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ15 【症例 RE 74】

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