上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ16 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 80】

非閉塞性腸間膜虚血症.NOMI(Non-Occlusive Mesenteric Ischemia)












腹水があり(※),右側結腸(A:上行結腸,C:盲腸),横行結腸(T)とS状結腸(S)がかなり強い浮腫性壁肥厚を呈し,周囲脂肪組織の濃度上昇を伴い炎症性大腸疾患である.虚血性大腸炎を疑い,広範囲であることと,壁の造影効果が減弱していると解釈し血管造影を施行した.図AでSMA(上腸間膜動脈)の,図BでIMA(下腸間膜動脈)の広範囲のspasm(↑)を示し非閉塞性腸間膜虚血症(NOMI:non-occlusive mesenteric ischemia)と診断された.3日間SMAへ塩酸パパベリンを持続動注し症状が改善した.しかし,動注を中止した翌日には腹痛が再現し,原因不明のacidosis(PH:7.34,BE:-8)を示したので開腹手術を施行したが右側結腸と横行結腸に軽度の浮腫を認めただけで壊死所見はなかった.以後は順調に経過した.図8〜図10でSMAが急に狭小化している所見はNOMIを示唆する所見と考えるべきであろう.












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参考症例(NOMI):63歳女性.冠動脈バイパス手術後1週間目に腹痛が出現した.CTでSMA(↑)とSMV(白矢印)が狭小化し,さらに造影効果が減弱しているので血管造影を施行した(図A).SMA分枝にspasm(▲)を認めNOMIと診断し塩酸パパベリンを持続動注したが翌日腹痛が増強し腹部膨満を示したので手術となった.右側結腸と横行結腸に散在的な数ヶ所の壊死を認めた.術後は敗血症とDICを合併し死亡した.












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文献考察1):非閉塞性腸間膜虚血症:NOMI(Non-Occlusive Mesenteric Ischemia)の治療戦略(図)
Gastroenterol Clin North Am. 2003 Dec;32(4):1127-43. Intestinal ischemia. Burns BJ, Brandt LJ.
要旨:NOMIは急性腸間膜虚血症の20〜30%を占め,内臓血管の攣縮により腸管の虚血をきたす疾患である.うっ血性心不全,不整脈,ショックや脱水が原因または誘因となる.血管の攣縮は原因が解除されても持続し腸管壊死に至るといわれる.血管造影が唯一の診断法で,所見は1.SMA分枝起始部の狭小化.2.SMA分枝血管の不整,3.SMAアーケードの攣縮,4.腸管壁内血管の造影不良,である.診断がつけば直ちに塩酸パパベリンの持続動注を開始する.

文献考察2):NOMI,本邦集計43例(表1,2)
非閉塞性腸管虚血症(NOMI)の1例
  Author:秋谷行宏(日本医科大学附属多摩永山病院 外科), 江上格, 和田雅世, 飯田信也, 中村慶春, 前田昭太郎, 細根勝, 恩田昌彦
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)21巻4号 Page737-742(2001.05)
  Abstract:64歳女.左下腹部痛を主訴に同部位に圧痛,血液検査で軽度炎症所見,画像所見で大腸拡張を認め,軽度イレウスの診断で入院となった.保存的治療にて経過観察中,入院8時間後に腹膜刺激症状が出現し,その後ショック状態を呈し,急性腹症の診断で緊急開腹術を施行した.術中所見では直腸を除く全結腸に壊死を認め,結腸全切除および回腸瘻造設術を行った.病理組織所見では結腸周囲血管内に血栓,フィブリノイド変性はみられなかった.術後,敗血症,DICに陥り,第37病日に多臓器不全で死亡した.剖検所見では広範な小腸壊死を認め,本症例をNOMIと診断した.
  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)2 【症例 GE 7】
2. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)2 【症例 GE 8】

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