上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ16 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 78】

上腸間膜動脈塞栓症.SMA embolism








心房細動のある患者が腹痛を訴えたらまずSMA塞栓症を疑い,SMAを起始部から追跡する.図3で始まり図6まで良好に造影されているが,図7〜図9で造影されず(↑),図10から末梢は再度造影されている(白矢印)所見は側副路からの血流があることを示唆する.図9〜図18まで,下腸間膜動脈支配の下行結腸(D)と比較し全腸管壁の造影効果を認め,高度の虚血や壊死を示唆する所見はない.血管造影でSMAの閉塞を認めた(図A:▲)が,側副路から回腸遠位部の血管が造影されている(△).ウロキナーゼ12万単位を動注し末梢の血栓が一部溶解(図B)し,側副路の血流が改善した.その後3日間塩酸パパベリンを持続動注し腹痛が消失した.












参考症例(抗リン脂質抗体症候群・SMA血栓症):23歳男性.4年前腎梗塞のため右腎摘出術を受けた際抗リン脂質抗体症候群と診断されている.5日前から次第に増強する上腹部痛を訴え近医受診,急性腹症の疑いで転送された.体温:36.8℃,腹部は全体的に軽度の圧痛を認めるだけである.抗リン脂質抗体症候群の患者が腹痛を訴えたらSMAは閉塞していないか検索することは必須である.SMAは図9から造影されなくなりSMA血栓症であるが,下行結腸(D)と比較して他の腸管は良好な造影効果を示し壊死や高度の虚血はないと解釈する.しかし,CT所見を見落とされ,イレウスとして経鼻的イレウスチューブが挿入され,腹部所見は悪化し4日後に開腹手術が施行された.回盲部と回腸が壊死に陥っており切除し,残存小腸は150cmであった.初診時に正確にCT診断され血管造影を行っておれば側副路から全腸管が造影され,SMAへ血管拡張剤を持続注入して腸管壊死を免れた可能性がある.図3で左腎静脈が拡張しているのは白矢印の部位でSMAと大動脈により腎静脈が圧迫されている(白矢印)ためで,左腎静脈捕捉症候群(nutcracker syndrome)と呼ばれる病態であり,無症候性血尿の原因となることがある.
















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文献考察:急性上腸間膜動脈閉塞症に対するウロキナーゼ動注療法,23例の本邦集計(表)
急性上腸間膜動脈閉塞症に対するウロキナーゼ動注療法 2症例の報告
  Author:宗岡克樹(新津医療センター病院), 白井良夫, 高木健太郎, 小山高宣
  Source:日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)34巻5号 Page495-499(2001.05)
  Abstract:症例1:59歳男.上腸間膜動脈(SMA)本幹に完全閉鎖を認め,ウロキナーゼ60万IUの動注により血栓は消失した.発症からSMA再疎通までは3.5時間であった.腸切除を要さず,1ヵ月で軽快退院した.症例2:68歳男.SMAの完全閉塞を認め,ウロキナーゼ60万IU動注により血栓は消失した.発症からSMA再疎通までは6.5時間であった.腹部所見は軽減したが,再疎通後3時間目から再度増悪したため緊急手術を行った.空腸,回腸280cmが壊死しており,腸管切除再建を行ったが,術後4ヵ月目に多臓器不全で死亡した.本療法を発症後早期(SMA本幹閉塞では5時間以内,右結腸動脈より遠位部の閉塞では12時間以内)に行えば腸管壊死を回避できる可能性がある
  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)2 【症例 GE 6】
2. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ11 【症例 RE 52】

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