上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ16 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 79】

上腸間膜動脈塞栓症.SMA embolism












図9〜図12で下行結腸(D)と▲の小腸グループは壁が良好に造影されているが,拡張して壁の造影効果が弱い小腸のグループ(△)が対照的な相違を示しているので,拡張した小腸(△)は虚血状態ではないかと疑う.SMAを追跡すると図9から造影されなくなる(↑).つまりそこから血流が途絶えており,心房細動があるので塞栓症と診断する.横行結腸(T)は明らかにviableと言えるが上行結腸(A)は壁の造影はやや弱く微妙な所見である.
所見を見落とされ,腹部所見が心窩部に圧痛を認めるのみであったため経過観察された.下段の翌日のCTでは図17〜図20で肝内の門脈内ガス(白矢印)が,図30〜図32で造影効果が認められない小腸の壁内気腫(▲)を示している.また図31と図32ではSMV分枝内のガス像(△)も描出され腸管壊死または高度の虚血状態の所見がさらに明瞭になった.図30〜図32でSMAは前日同様造影されない(↑).手術所見:Treitz靱帯から100cmの部位〜回盲部から90cmの部位までの約90cmの小腸壊死を認めた.かなり末梢側の閉塞だから横行結腸(T),上行結腸(A)と大部分の小腸は壊死を免れた,極めてまれな症例である.







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参考症例(上腸間膜動脈塞栓症):84歳女性.洞不全症候群のためペースメーカーが挿入され他院に入院中に,前日から上腹部痛と嘔吐があり,当日改善しないため転送された.体温:38.5℃,腹部は全体に圧痛があり板状硬である.図1と図2の白矢印は門脈内ガスで,図12〜図20で▲は小腸の壁内気腫を示し,図8〜図10ではSMV内にもガス(白矢印)を認める.SMAは図13と図14で造影効果を失い(↑)閉塞している可能性が高い.図3と図4の△は脾梗塞,図7と図8の△は腎梗塞と思われ多発性塞栓症と診断する.手術で血性腹水を認め,Treitz靱帯の尾側10cmの空腸から上行結腸中央部までの壊死を認めた.




















文献考察:急性上腸間膜動脈閉塞症.死亡率は32%
急性上腸間膜動脈閉塞症37例の検討
  Author:田畑峯雄(鹿児島市医師会病院), 渋谷寛, 大迫政彦, 坂元弘人, 溝内十郎, 迫田晃郎, 矢野武志, 島田受理夫, 内園均
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)21巻3号 Page489-497(2001.03)
  Abstract:急性上腸間膜動脈閉塞症37例の診断と治療成績について検討した.平均75歳で,心血管系疾患を94%が有し,35%がショックで来院した.LDH高値を89%,アシドーシスを30%に認めた.CT検査で18例中15例,臨床所見で10例が診断可能であった.治療法は動注療法4例中2例が血栓溶解,壊死腸管切除33例中20例が残存小腸70cm以下,全腸壊死の2例が試験開腹であった.在院死亡率は32%で,ショック,アシドーシス,基礎疾患複数合併,全結腸壊死合併では予後不良であった.耐術例の1年以内の早期死亡は7例で,平均82歳,残存小腸50cm以下4例であった.長期生存は18例で平均71歳,残存小腸70cm以下7例であった.以上より,心血管疾患を有する高齢者を本症のハイリスク群として認識し,CT検査による早期診断とショックに陥る前の治療が必要と思われた.
追記:最近のヘリカルCTは呼吸停止不能なpoor risk症例でも良質な画像が得られ, 血管病変の評価も可能である.CTによるSMA本幹の同定は起始部より7〜8cm尾側のスライス,すなわち本症の好発部位である中結腸ないし右結腸動脈分岐部付近までは可能である.SMAの血栓ないし塞栓は, 単純CTでは新鮮血栓はhigh density, 造影CTではSMAの相対的陰影欠損として描出される.SMA起始部から中ないし右結腸動脈分岐部付近までのSMA閉塞例は全例に造影CTで閉塞所見が得られた.腸管壊死に陥った場合は造影CTで腸管の造影効果不良所見が高頻度に認められ, 動注血栓溶解例では腸管の造影効果は良好であった.造影CTはSMAの閉塞部位と腸管の虚血状態を推測することが可能であり, 治療方針の指標になりうると考えられた.
  【参照症例】   1. 腹部全体痛シリーズ(Generalized Abdominal Pain)2 【症例 GR 8】

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