上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ16 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 76】

上腸間膜動脈塞栓症.SMA embolism








図7の1,図6の2,図5の3〜図6の9までの上部空腸は壁が造影されておりviableと思われるが,図4の9からは造影効果が明らかに低下し,虚血状態である.結腸も下行結腸(D)と横行結腸(T)は壁がよく造影されているが右側結腸(A:上行結腸、C:盲腸)は造影効果が弱い.SMAは図3から始まるが,尾側へ追っていくと図6からSMA内腔が造影されなくなる(↑).従ってSMA塞栓症による右側結腸と,上部空腸約50cm以外の全小腸の壊死または高度虚血と診断する.所見を見落とされ12時間後に手術となったが,壊死は進行しTreitz靱帯から20cmの空腸と横行結腸左側1/3から肛門側がviableで,他の部分は壊死に陥っており小腸と大腸の大量切除となった.








参考症例(上腸間膜動脈塞栓症):心房細動のある76歳女性.2時間前急に上腹部痛が出現した.図5からSMAが造影されなくなり(↑),心房細動があることから塞栓症である.図10で下行結腸(D)と▲の空腸(臍を中心に右上腹部から左下腹部へ斜線で区切ると空腸は左上へ,回腸は右下に位置する場合が多い)以外の造影効果は弱く虚血状態と解釈する.図Aの血管造影で塞栓部が示されている(↑).閉塞部より末梢にカテを進めることに成功し塩酸パパベリンとウロキナーゼを動注したら一部塞栓が溶解され,図Bのごとく閉塞部の末梢が造影された.数ヶ所でspasmを認める(△)のでその後も塩酸パパベリン持続動注を続けた.翌日腹痛が続いていたので試験開腹を施行したが腸管壊死は認めなかった.術後は順調に経過した.












文献考察1):急性腸間膜虚血症の原因(表1,2)と治療戦略(図)
Sreenarasimhaiah J. Diagnosis and management of intestinal ischaemic disorders. BMJ. 2003 Jun 21;326(7403):1372-6. Review. PMID: 12816826(full text)

文献考察2):上腸間膜動脈塞栓症の治療方針・術前,術中と術後にSMAから塩酸パパベリンの持続注入を(腹部全体痛シリーズ:症例GR8の文献考察を再掲)
Kaleya RN, Boley SJ. Acute mesenteric ischemia. Crit Care Clin. 1995 Apr;11(2):479-512. Review. PMID: 7788542

要旨:治療方針の基盤は次の4つの観察所見に基づく.1.腸管壊死に陥る以前に診断治療しないと死亡率は70〜90%である.2.閉塞性も非閉塞性も血管造影で診断できる.3.腸間膜動脈閉塞部より末梢で血管の攣縮が起こり,それが腸管梗塞を助長し,また血管攣縮は血栓や塞栓除去後も続くものである.4.その血管攣縮はSMAへ血管拡張剤注入で解除できる.従って上腸間膜動脈塞栓症を疑えば診断上,治療上も腹部血管造影は全例に適応である.
全身状態の悪い例が多いのでSwan-Ganzカテーテルを挿入し,循環系の最大限の補助治療を必要とする.動脈閉塞の診断がつき手術の決定が為されてもSMAのカテーテルは留置し,まず即効性のα-blocker,tolazoline25mgを注入し,その後塩酸パパベリンを30〜60mg/hで術前から持続注入を開始する.血管拡張剤を投与しても壊死に陥った腸管がviableになることはないが,壊死前の虚血状態の腸管の血流改善が期待できる.血管攣縮は術後も続くので術後24〜48時間は持続注入を続け,血管造影で攣縮がない,腸管への血流が良好であることを確認してカテーテルを抜去する.塩酸パパベリンは90%以上が肝臓で分解されるので全身的な影響はほとんどないが,カテーテルがSMAから抜けて全身投与となり血圧低下をきたせば逆効果となるので,定時的に腹部レントゲンでカテーテルの位置を確認する必要がある.
65例を治療し,生存率は55%と以前の2倍になったのみならず,生存者の切除腸管の長さはほとんどが100cm以下であった.腹膜刺激症状のない時期に診断できた症例の生存率は90%であった.

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  【参照症例】   1. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ11 【症例 RR 55】

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