文献考察:感染性肝嚢胞,本邦集計29例(表1). 感染性肝嚢胞の1例
Author:並川努(高知県立幡多けんみん病院), 中村生也, 近藤雄二, 山下邦康, 荒木京二郎
Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)61巻6号 Page1530-1535(2000.06)
Abstract:81歳男.上腹部痛,全身倦怠感を訴え受診した.心窩部に軽度の圧痛を認めるが反跳痛はなく,白血球数14,470/mm3,CRP15.3mg/dl,CEA0.5ng/ml,CA19-9
追記:肝嚢胞は一般に無症状に経過し治療の対象となることは少なく, 多くは放置, 経過観察されている. しかし, 嚢胞が巨大化し周囲臓器を圧排して上腹部不快感, 腹痛などの症状や肝機能障害, 黄疸が出現したり, 感染や出血を合併した場合には治療が必要となる. 肝嚢胞に細菌感染を伴い発熱; 腹痛といった臨床症状の出現した感染性肝嚢胞の頻度は極めて稀で, 本邦における感染性肝嚢胞の報告例を文献的に検索してみると, 自験例を含めて29例が認められた. 年齢は36歳から100歳までみられ, 平均年齢は70歳であった. 男女比は男性12例, 女性16例で, 嚢胞は単発が14例, 多発例が15例で, 大きさは,5cmから15cmまでみられた. 嚢胞内溶液の培養検査で起因菌が陽性であった例は12例で,陰性が11例あったが,陰性例は細菌培養検査に先行して抗生物質が投与されているためと思われた.大腸菌が最も多く5例,緑膿菌,肺炎桿菌,セラチアがそれぞれ1例であった.
文献考察:肝膿瘍の経皮経肝的ドレナージの適応は何cm?
文献考察1):6cm(表2)
Krige JE, Beckingham IJ. ABC of diseases of liver, pancreas, and biliary system. Liver abscess and hydatid cyst.
BMJ. 2001 Mar 3;322(7285):537-40. Review. PMID: 11230072 (full text)
文献考察2):5cm
Mortele KJ, Segatto E, Ros PR. The infected liver: radiologic-pathologic correlation.Radiographics. 2004 Jul-Aug;24(4):937-55. Review. PMID: 15256619(full text)
文献考察3):5cm
Ralls PW. Inflammatory disease of the liver. Clin Liver Dis. 2002 Feb;6(1):203-25. Review. PMID: 11933590
文献考察4):3cm.胆管と交通のある肝膿瘍は経皮経肝的ドレナージの効果が弱く,胆道のステントが必要.
Am J Surg. 2002 Feb;183(2):205-8. Pyogenic hepatic abscess with biliary communication.
Sugiyama M, Atomi Y.
BACKGROUND: The aims of this study were to compare the effectiveness of percutaneous drainage between pyogenic hepatic abscesses with and those without biliary communication and to evaluate the role of endoscopic biliary stent placement in the treatment of communicating abscesses. METHODS: Sixty-one patients with hepatic abscesses underwent percutaneous drainage. For communicating abscesses refractory to drainage alone, endoscopic biliary stenting was performed. RESULTS: After drainage, all patients showed improvement in their clinical condition and reduction in abscess size. Drainage alone completely cured abscesses in none of 10 patients with biliary communication and obstruction, in 3 of 10 with communication but without obstruction, and in 37 of 41 without communication. Endoscopic stenting was completely effective in all 7 patients with persistent discharge from a communicating abscess without biliary obstruction. CONCLUSIONS: Percutaneous drainage is less effective for communicating abscesses without biliary obstruction than for noncommunicating abscesses. Endoscopic biliary stenting is recommended, if drainage does not achieve a cure.PMID: 11918890
文献考察5):3cm
【肝良性疾患 鑑別診断と治療法選択のupdate】 肝膿瘍 細菌性肝膿瘍
Author:小森山広幸(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 外科), 萩原優, 田中一郎, 鈴木博, 岡本英明, 宮崎治
Source:臨床外科(0386-9857)56巻7号 Page903-912(2001.07)
Abstract:発熱と上腹部痛を訴え,血液生化学検査で白血球数とCRPの著明な上昇を認め,腹部超音波検査或いはCT検査で肝に嚢胞状の腫瘤をみれば肝膿瘍の疑診は容易であり,更に穿刺にて膿汁が得られれば確定診断に至る.しかし実際には肝腫瘍などでも同様な臨床経過や画像所見をとることがあり,鑑別に難渋することもある.肝膿瘍の治療としては,小さい単発の膿瘍では抗菌剤の使用のみでも軽快するが,症状や炎症所見が継続したり, 膿瘍が3cmを越える症例には積極的に超音波誘導下のドレナージを計画すべきである.更に肝膿瘍を誘発した原因疾患の検索と治療が大切である.
文献考察6):3cm
【消化器疾患のエビデンスとエキスパート・オピニオン】 肝膿瘍の治療選択 どのような症例で穿刺及びドレナージ治療が適応となるか?
Author:六倉俊哉(茅ヶ崎徳洲会総合病院 消化器科)
Source:Medicina(0025-7699)40巻9号 Page1571-1573(2003.09)
Abstract:肝膿瘍の治療は抗生物質の投与と経皮的ドレナージが基本である.30mm以上のものに関しては単発,多発を問わずドレナージを施行するべきである.小さなものに関しては抗生物質の投与のみ,或いは穿刺排膿による治療でも有効である.敗血症,多臓器不全を合併しているものの予後は極めて不良であり,躊躇することなく速やかにドレナージを行うべきである.胆管炎など原疾患に対する治療も併せて行わなければならず,PTCDないしERCPに関連した技術が診断ならびに治療において非常に重要である.アメーバ性肝膿瘍はメトロニダゾールの内服のみでも有効であるが,鑑別困難なときや複合感染もあるのでドレナージを躊躇するべきではない.悪性腫瘍との鑑別が困難な場合や排膿がみられない場合には,穿刺時に吸引細胞診を施行する.出血,腹膜炎,チューブの事故抜去など合併症については十分に留意する必要がある.
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