上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ14 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 66】

肝嚢胞破裂.Ruptured liver cyst





肝嚢胞(↑)破裂を示唆する所見が3つある.1)肝臓と脾臓周囲に腹水があり(※),そのdensityは嚢胞の内溶液と同等である.2)嚢胞壁の一部が平滑でなく凹凸があり破裂したために減圧された所見である.3)図7〜図9で嚢胞背側のdensityのやや高い▲は破裂部位から出血し貯留した血腫の可能性がある.翌日腹痛がさらに増強したので手術を施行した.約500mlの淡血性腹水を認め,肝嚢胞が破裂しており嚢胞開窓術を行った.









参考症例(肝嚢胞破裂):81歳女性.前日に上腹部痛が急に出現した.近医にて点滴しながら様子をみていたが改善しないため紹介来院した.体温:38.9℃,腹部はsoft and flatで上腹部に圧痛がある.腹水があり,肝外側区域を支配する低吸収値病変は肝嚢胞と思われ,通常の緊満した円形画像ではなく減圧された感じが強い.内容液が減少したから壁がやや厚くなっていることも破裂を強く示唆する.△の壁欠損部が穿孔部位か? 経皮的ドレナージと抗生物質投与で治癒した.混濁した内容液が排出され感染した肝嚢胞の破裂と思われたが,細菌培養は陰性であった.








文献考察1):肝非腫瘍性嚢胞性疾患の鑑別診断(表1,2)
【肝良性腫瘍および腫瘍類似病変の画像診断】 肝嚢胞性疾患(解説/特集)
  Author:山田哲(信州大学 医学部放射線科), 古川智子, 宮崎純子, 松下剛, 黒住昌弘, 藤永康成, 上田和彦, 角谷眞澄, 香田渉, 蒲田敏文
  Source:画像診断(0285-0524)25巻3号 Page246-258(2005.02)
要旨:1)単純性肝嚢胞(simple hepatic cyst).胆道系と交通を持たない先天性の良性疾患で,胆管上皮に由来する過誤腫の一種と考えられている.嚢胞内出血や感染を併発することがありcomplicated cystと総称される.2)線毛性前腸性肝嚢胞(ciliated hepatic foregut cyst).肝組織内に迷入した細気管支に由来すると考えられており,好発部位は肝左葉内側区域の肝表面直下で,径2-3cmの嚢胞である.3)多嚢胞肝(polycystic liver disease).遺伝性疾患で多嚢胞腎に合併して見られることが多い.4)胆管周囲嚢胞(peribiliary cyst).胆管壁外の胆管周囲付属腺が嚢胞状拡張をきたしたものである.多くは2-25mm程度の小嚢胞であることが多い.5)胆管性過誤腫(bile duct hamartoma).von Meyenburg complexとも呼ばれ,胆管壁組織の遺残を起源として発生する.胆道系とは交通のない1-15mm大のびまん性に存在する小嚢胞である.6)Caroli病(Caroli disease).肝内胆管系が非閉塞性の嚢状拡張をきたす遺伝性疾患で,肝内胆管嚢胞状拡張,多数の肝内結石および腎嚢胞性疾患を伴う点が特徴である.7)胆汁漏(biloma).胆道系の破綻によって生じる病態で,肝実質内に漏出すると激しい炎症反応を生じ,境界鮮明な偽被膜を形成する.

文献考察2):simple(non-parasitic) liver cyst
Hepatogastroenterology. 2000 Sep-Oct;47(35):1439-43.
Simple (non-parasitic) liver cysts: clinical presentation and outcome.
Karavias DD, Tsamandas AC, Payatakes AH, Solomou E, Salakou S, Felekouras ES, Tepetes KN.

Non-parasitic hepatic cysts are frequent and usually asymptomatic. Investigation must differentiate from parasitic or neoplastic cysts. Ultrasonography, computed tomography, magnetic resonance imaging and serology do not always ensure a definitive diagnosis, where as other diagnostic methods offer little assistance. Symptoms, complications or uncertain diagnosis make treatment necessary. Various techniques have been used in management of non-parasitic hepatic cysts. Both surgical and recent minimally invasive methods such as laparoscopy and percutaneous aspiration with sclerotherapy are discussed and evaluated. Treatment of choice or indications for each method remains a controversial subject that requires further study.PMID: 11100371
追記:肝嚢胞の16%が有症状となるが,多くは周囲臓器への圧排によるもの.合併症としては,嚢胞内出血,感染,腹腔内への破裂があるが,5%に発生する.

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