上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ14 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 66】

肝膿瘍.Liver abscess















内部に液化領域を伴う比較的典型的な肝膿瘍で,最上段の単純CTでは多房性の嚢胞状腫瘤を示す(↑).早期相(Early)で中心部の膿瘍腔は造影効果を示さず,周囲に区域性の楔形の濃染を認め(白矢印:下記文献),門脈血流が減少し,代償性に動脈血流が増加した現象を描出している.図8〜図10で膿瘍周囲の反応性浮腫を示す低濃度域(▲)を認めるが,1分後の図16〜図18でさらにはっきりしてくる(▲).図17と図18で膿瘍壁が造影され始め(△)リング状濃染を示し,図21〜図24の後期相ではそれが厚く描出される(△).保存的に抗生物質投与だけで4週間で治癒した.腹部エコー検査で胆石を認め,胆嚢炎による肝膿瘍の可能性があり胆嚢摘出術を施行した.










参考症例 1(肝膿瘍): 61歳男性.1週間前から発熱がありインフルエンザとして加療された.2日前になっても発熱は続き,さらに右上腹部痛が出現し食欲も低下した.体温:38.0℃,腹部はsoft and flatで特に所見はない.肝右葉に内部均一な低吸収域病変(※)があり,造影早期相ではリング状濃染(△:膿瘍壁)と,その周囲に低濃度の浮腫(▲)を認める.“Double target sign”と呼ばれ,肝膿瘍の特徴といわれる.後期相ではリング状濃染は血管拡張を意味する高濃度域として厚くなって描出される(図6〜図10:↑).経皮的ドレナージを施行したが膿瘍の縮小傾向が遅かったため肝後区域切除を施行した.膿培養は陰性で,病理検査では「肉芽組織の一部に組織球よりやや大きなPAS弱陽性の円形構造物を認め,アメーバ膿瘍の可能性を否定できない」と報告された.










参考症例 2(アメーバ肝膿瘍):33歳男性.右季肋部痛と38度台の発熱のため来院した.肝右葉に低濃度を呈する病変(↑)があるが,病歴,血液検査,腹部エコーとCT所見から肝膿瘍と診断し,経皮経肝的ドレナージを施行した(図Aと図B).黄緑色の膿が得られたが,後日排液よりアメーバ原虫が検出されアメーバ膿瘍と診断された.ドレナージ法だが,膿瘍に最短距離の▲の部位からではなく,図Aのごとく膿の腹腔内へ漏出を防ぐためにある程度の肝実質を経由して穿刺することが大事である.3週間で完治した.





参考症例 3(肝膿瘍のドレナージ):75歳男性の肝膿瘍だが,図Cの▲の部位から,しかも太いチューブでドレナージされたために膿が腹腔内へ漏出し(図D:↑),腹膜炎を起こした.白矢印は造影効果を受ける腹膜の肥厚を示し腹膜炎を意味する.開腹手術となり,術後敗血症を合併し2ヶ月間のICU管理を要し,退院まで5ヶ月もかかった症例である.膿培養でE.coli とKlebsiella oxytocaが検出された.



拡大画像を見る
文献考察1):【感染症と肝】 細菌感染症と肝 肝膿瘍の成因と治療
  Author:林茂樹(国立国際医療センター), 山下浩子
  Source:臨床消化器内科(0911-601X)16巻4号 Page433-439(2001.03)
要旨:肝膿瘍は, 感染経路により経胆道性(45%), 経門脈性, 経動脈性(2%), 直達性(5%), 外傷性(2%), 特発性(45%)に大別でき, 経胆道性と特発性が最も多い. また起因菌については好気性グラム陰性菌が多く, 特にKlebsiella pneumoniaeが最も多く,次にEscherichia coliが多い. また嫌気性菌や複数菌感染(23%)の関与も認められる. 肝膿瘍は,過去において致死率の高い疾患であったが, 近年診断能の向上と薬物療法の進歩, 更に膿瘍ドレナージ等により致死率は低下している. 現在の肝膿瘍の治療の主流は, 抗生物質の全身投与と膿瘍ドレナージである. 開腹下ドレナージは特殊な合併症を有する場合に限られる.

文献考察2):D'Angelica M,Fong Y.The Liver:In Townsend's Sabiston Textbook of Surgery.17th ed.2004,page:1534-1539.Elsevier Saunders.Philadelphia.
pyogenic liver abscess:感染経路は経胆道性(40%)と特発性(cryptogenic:40%)が多い(表).特発性は,診断に至っていないまたは既に治癒した腹部病変,糖尿病,悪性腫瘍や免疫不全があり一時的な菌血症からの感染などが考えられる.3/4は右葉に,20%は左葉に,5%は尾状葉に発生し,約50%は孤立性である.起炎菌はE.coli とKlebsiella pneumoniaeが最も多く,Klebsiella pneumoniaeによるものはガス産生性膿瘍となることが多い.血液培養は50-60%に陽性となる.経皮的ドレナージによる治癒率は69〜90%で,近年の死亡率は10〜20%.

文献考察3):70%が右葉に発生し,77%は孤立性.Klebsiella pneumoniaeによるものが最近増えており,特にアジア系の人に多い.死亡率は減少し2.5%であった
Clin Infect Dis. 2004 Dec 1;39(11):1654-9.
Pyogenic liver abscess: recent trends in etiology and mortality.
Rahimian J, Wilson T, Oram V, Holzman RS.

BACKGROUND: Pyogenic liver abscess, a potentially life-threatening disease, has undergone significant changes in epidemiology, management, and mortality over the past several decades. METHODS: We reviewed the data for patients admitted to Bellevue Hospital and New York University Downtown Hospital (New York, New York) over a 10-year period. RESULTS: Of 79 cases reviewed, 43% occurred in patients with underlying biliary disease. The most common symptoms were fever, chills, and right upper quadrant pain or tenderness. The most common laboratory abnormalities were an elevated white blood cell count (in 68% of cases), temperature >or=38.1 degrees C (90%), a low albumin level (70.2%), and an elevated alkaline phosphatase level (67%). Seventy percent of the abscesses were in the right lobe, and 77% were solitary. Klebsiella pneumoniae was identified in 41% of cases in which a pathogen was recovered. Eighteen (50%) of 36 Asian patients had K. pneumoniae isolated, in contrast to 6 (27.3%) of 22 non-Asian patients (not statistically significant). Fifty-six percent of cases involved treatment with percutaneous drainage. Although prior reports noted mortality of 11%-31%, we observed only 2 deaths (mortality, 2.5%). CONCLUSIONS: The data suggest that K. pneumoniae has become the predominant etiology of pyogenic liver abscess and that mortality from this disease has decreased substantially.PMID: 15578367

文献考察4):肝膿瘍のCT所見
【肝良性腫瘍および腫瘍類似病変の画像診断】 肝炎症性腫瘤 肝膿瘍を中心に(解説/特集)
  Author:蒲田敏文(金沢大学 医学部放射線科), 松井修
  Source:画像診断(0285-0524)25巻3号 Page318-327(2005.02)
要旨:肝膿瘍の画像所見は, 感染後からの時間的な経過により変化するのが特徴である. 初期の肝膿瘍では壊死や膿瘍腔が少なく, 画像上充実性腫瘤に類似する. すなわち, 造影CTでは, 造影早期から後期相にかけて腫瘤内部が蜂巣状の造影効果を認めるが, 明らかな膿瘍腔を示唆する低吸収域は見られない. この場合には肝内胆管癌や腺癌の肝転移との鑑別が必要となる. 発熱や炎症反応などの臨床所見と経過観察による画像所見の変化が診断の参考になる. 内部に液化領域を伴う典型的な肝膿瘍では, 組織学的には中心部の膿瘍腔と, 周囲の肉芽組織より成る膿瘍壁, ならびに周囲肝組織の反応性の浮腫性変化を認め, それが画像所見に反映されることになる. 画像上は単房性あるいは多房性の嚢胞状腫瘤の形態を示す. 典型的な膿瘍は, ダイナミックCTでは膿瘍腔は早期相から後期相まで造影効果を示さない. 周囲は早期相ではより内側がリング状に濃染し, 後期相ではより濃染が外側に広がりリング状濃染が厚くなる. このリング状濃染だけを見ると腺癌の肝転移と類似したパターンを示すので注意が必要である. リング状濃染を示す肝臓癌と, 胃癌, 大腸癌などの腺癌の肝転移あるいは肝内胆管細胞癌との鑑別点の一つとして, 造影剤静注から5-10分後に撮影した後期相での画像所見の相違が挙げられる. すなわち, 後期相では膿瘍腔は造影されないが, 線維性間質に富む腺癌の肝転移は腫瘍の内部が遅延性濃染を示し, 腺癌の辺縁部が低吸収を示すことが多い. この所見が認められれば腺癌の肝転移を疑うことが可能となる(delayed enhancementあるいはperipheral low).また, 肝膿瘍では, ダイナミックCTの早期相で膿瘍周囲に区域性ないし楔状の濃染が一過性に出現することがある. 我々の検討では約67%に認められた. これは炎症が膿瘍周囲の肝実質のGlisson鞘に及び, Glisson鞘内の門脈枝の狭小化ないし閉塞により, 区域性に門脈血流が低下し, 代償として動脈血流が増加するためと考えている(Gabata T.et al:AJR 176.675-679, 2001). この区域性濃染は膿瘍の大きさの割に広範囲に見られる,抗生剤治療で治癒傾向に向かうと縮小ないし消失する点が腫瘍による門脈浸潤や動門脈シャントとは異なる.肝膿瘍の診断は発熱, 胆道系酵素上昇, 炎症反応陽性などの臨床的所見と画像所見, 特に造影ダイナミックCTでの層状のリング状濃染と, 一過性の区域濃染の所見が認められれば, かなり確実に診断できると思われる.
  【参照症例】   1. その他(Miscellaneous)シリーズ9 【症例 MR 41】

 【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】