上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ13 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 63】

急性膵炎・膵臓癌.Acute pancreatitis with cancer of pancreas head






図5と図6で膵尾部(T)と体部(B)が椎体の横径以上に腫大し,図8と図9で尾部周囲に脂肪組織の濃度上昇を認め(△)急性膵炎がある.図10〜図14の膵頭部の↑部分はやや低濃度に不整に造影され腫瘍性病変を疑う.門脈(PV)とSMVを追跡すると図8〜図12のSMVは左右から圧排され狭小化し,腫瘍性病変に巻き込まれた所見であり,↑病変は悪性腫瘍であることを示唆する.図AのERCP画像で主膵管の中断(▲)と総胆管の狭窄(白矢印)を示している.Du:十二指腸,CBD:総胆管. 手術所見:門脈へ浸潤した膵頭部癌であり膵頭部および門脈合併切除を行った.急性膵炎の1〜2 %は膵臓癌が原因となることを忘れてはならない(下記文献).







参考症例(急性膵炎・IPMT):56歳男性.3日前に心窩部痛と嘔気が出現した.当日になっても腹痛が持続し食欲が全くないため来院した.体温:36.0℃,心窩部に圧痛があるが反跳痛や筋性防御はない.総胆管(CBD)と膵管が軽度の拡張を示している.膵周囲に脂肪組織の濃度上昇を認め(▲)急性膵炎を起こしている可能性が高い.膵頭部に嚢胞性病変(↑)を認めるが,膵管と総胆管が拡張しており膵炎の原因と思われる.図BのERCPで分枝膵管(白矢印)型の膵管内乳頭(粘液性)腫瘍(IPMT:Intraductal Papillary Mucinous Tumor:△)として経過観察中である.









文献考察1):膵癌に伴う急性膵炎
Pancreatology. 2005;5(4-5):330-44.
Pancreatitis associated with pancreatic carcinoma. Preoperative diagnosis: role of CT imaging in detection and evaluation.
Balthazar EJ.

The combined occurrence of pancreatic carcinoma with acute or chronic pancreatitis is seldom seen in medical practice, but when present it is a challenging dilemma, plagued by confusing overlapping clinical findings and pitfalls in diagnostic imaging tests. This article reviews the presumptive pathophysiological aspects of this relationship, the perplexing clinical presentations and the advantages and limitations of the noninvasive imaging examinations. The role of state-of-the-art CT imaging in screening patients with acute and chronic pancreatitis is emphasized and the impute of additional more invasive tests in detecting pancreatic tumors in this cohort of patients is reviewed. The habitual use of CT imaging, followed when needed by complementary examinations, can improve on previously reported low detection rates and hopefully decrease the number of exploratory laparatomies and unnecessary major pancreatic surgical resections. PMID: 16015017(full text)
追記:膵臓癌による急性膵炎は膵臓癌の3%に起こり,逆に急性膵炎例の1-2%に膵臓癌が発見される.慢性膵炎例で10年で2%に,20年の病歴だと5.9%に膵臓癌が発生したとの報告がある.

文献考察2):IPMT (Intraductal papillary-mucinous tumor :膵管内乳頭腫瘍)
【IPMT(Intraductal Papillary-Mucinous Tumor)の診断と治療】 IPMT(Intraductal Papillary-Mucinous Tumor)の定義と分類
  Author:泉里友文(杏林大学 第1外科), 杉山政則, 跡見裕
  Source:胆と膵(0388-9408)21巻7号 Page527-532(2000.07)
要約: IPMT (Intraductal papillary-mucinous tumor :膵管内乳頭腫瘍)は"いわゆる"粘液産生性膵腫瘍(狭義)と呼ばれている.広義の粘液産生膵腫瘍(mucin-producting tumor :MPT)にはIPMTとMCT (Mucinous cystic tumor :粘液性嚢胞腫瘍)が含まれ,ともに多量の粘液を産生・貯留を特徴とするが, 好発年齢,性別, 好発部位, 予後に至るまで, 相違点が多いことが指摘されている.さらに, AFIP分類からMCTにおけるovarian-type stromaの存在が提唱されて以来, IPMTとMCTを別のカテゴリーとして扱うという考えが主流になりつつある.膵管上皮由来とされており, 全膵癌中の1.9〜6%を占め, 高齢男性に多く, 膵頭部に好発する.病理組織学的には異型度に基づいてIPCSG(A Publication of the International Pancreatic Cancer Study Group)分類, WHO分類, AFIP分類などが使われており, いずれも本腫瘍を良性, 良悪性境界腫瘍, 悪性の三者に分類している.本邦では膵癌取扱い規約に基づいて膵管内乳頭腺腫と腺癌の両者に分類している.また, 腫瘍の存在部位により, 主膵管型, 分枝膵管型, 混合型にも分類される.本腫瘍は, 大膵管上皮を発生母地とし膵管内を乳頭状, 瀰慢性に発育, 進展する.さらには, 緩徐に悪性度を増し, 過形成, 腺腫さらに腺癌に進行すると考えられている.多量に産生される粘液塊や腫瘍塊により膵管系が閉塞しやすく, 主膵管の拡張やぶどうの房状の嚢胞状膵管拡張が特徴的である.膵管系の閉塞症状が出やすいため, 早期発見が多い.腺癌でも膵管外への浸潤傾向は弱く, 緩徐に成長し, 非浸潤癌が半数以上を占めている.これらの理由により切除率が高く, 切除例の予後も良く, IPMTの切除例の5年生存率は, 良性〜境界腫瘍は100%, 非浸潤癌は85%と報告されている.

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