上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ13 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 61】

Groove pancreatitis.






胃と十二指腸(Du)が拡張しているが,閉塞部位は図8と図9の壁肥厚した十二指腸の下行部(↑)である.図11と図12で膵頭部周辺の液貯留または浮腫(△)を認め活動性の膵炎を強く示唆する.図8〜図10で十二指腸膵頭部間(Groove)に,総胆管(CBD)とは別の2個の嚢胞状病変(白矢印:1個は膵管の可能性がある)を認め,Groove pancreatitisと診断する.内視鏡検査(図A)で十二指腸下行部に全周性の浮腫性壁肥厚と結節状腫瘤を認め狭窄していた.図Bの造影では母指圧痕像(Thumb-printing :▲)を呈し粘膜下浮腫による狭窄を示唆する.嘔吐が続いたため膵頭十二指腸切除術を施行した.病理:chronic pancreatitis with fibrosis,consistent with groove pancreatitis.十二指腸下行部にも慢性炎症と線維化を認める.嚢胞状病変は上皮細胞を有し膵石を認めるので拡張したSantorini 管であろう.






参考症例(Groove pancreatitis):65歳男性,social drinker.5日前からの上腹部痛と進行する黄疸(T-Bil:14.7mg/dl)のため来院した.ガストログラフィンが投与されている.胆嚢(GB)がやや腫大し緊満感があり,肝内胆管(△)と総胆管(CBD)が拡張しており,閉塞部位は図Cの部位である.膵頭部(↑)はやや腫大し,十二指腸と膵頭部間(Groove)に浮腫を認め(白矢印),Groove pancreatitisを疑う.図DのERCPでも膵頭部での総胆管の閉塞を示している(▲).膵頭十二指腸切除を行ったが,病理検査で慢性膵炎と診断された.










文献考察:Groove pancreatitis
1)【肝胆膵領域における腫瘍性病変の画像と病理】 腫瘤形成性非腫瘍病変 膵臓 Groove pancreatitis(解説/特集)
  Author:片岡慶正(京都府立医科大学 消化器病態制御学), 元好朋子, 阪上順一, 光藤章二, 森本泰隆, 谷野眞通, 中條忍, 岡上武
  Source:肝・胆・膵(0389-4991)49巻5号 Page879-883(2004.11)
要旨:解剖学的にGroove領域とは十二指腸下行脚と膵頭部, 総胆管に囲まれた溝と定義されており, 同部位には胃十二指腸動脈が走行する. Groove pancreatitisとは「Groove領域を中心とした限局性の慢性膵炎」であり, その解剖学的特異性から特徴的な臨床像を呈することが多い. 病変がgroove限局性で, 他の膵実質に異常を認めないpure formとgroove領域の病変が主体ではあるが, 連続した膵頭部背側にも膵炎の波及がみられるsegmental formに分類される. Groove pancreatitisは男性に多く,80 %が大酒家である. 本邦では大酒を含めた何らかの飲酒歴が94%との報告がある.
 発症機序は不明であるが, 長期に及ぶアルコール摂取が, 十二指腸Brunner腺過形成や粘稠度の高い膵液分泌を誘発し, 膵液の流出障害, 特に副膵管領域の膵液うっ滞(damming back)の結果, groove領域に炎症を生じると推察されている. Groove pancreatitisは一見して, 進行した膵頭部領域の悪性腫瘍を想定させる画像を示すこともあるが, 内科的保存療法で完治可能な症例も増加しており, 臨床上常に念頭に置く必要性のある稀な疾患である.

2)AJR Am J Roentgenol. 2004 Sep;183(3):839-46.
Normal anatomy and disease processes of the pancreatoduodenal groove: imaging features.
Yu J, Fulcher AS, Turner MA, Halvorsen RA. PMID: 15333380
解剖は(図)参照.CT所見:十二指腸の壁肥厚,その肥厚した壁に嚢胞性病変,造影CTで早期相は造影不良,後期相で遅延性に造影される.悪性腫瘍との鑑別が困難なことがある.

3)十二指腸閉塞を呈したgroove pancreatitisと思われた1例
  Author:五十嵐章(聖隷吉原病院 外科), 伊藤孝, 稲葉圭介, 清水亨
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)64巻9号 Page2271-2276(2003.09)
要旨:本邦集計29例(表)で,男女比は25:4と圧倒的に男性に多く,年齢は33〜70歳(平均:49.3歳).飲酒歴は68%に認められ,治療は22例に膵頭十二指腸切除が行われていた.

拡大画像を見る

拡大画像を見る

 【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】