上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ12 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 60】

膵膿瘍(感染性仮性嚢胞)胃内破裂.Rupture of pancreatic abscess (infected pseudocyst) into stomach.





図6と図7で膵尾部に石灰化を(↑),図6〜図8で膵管の拡張を認め(白矢印)慢性膵炎である.AとBの2つの嚢胞は仮性嚢胞と思われるが,Aは造影効果のやや強い壁肥厚を示し,図3〜図5で周囲脂肪組織の濃度上昇を伴い(▲)感染(膵膿瘍)を示唆する.





経皮的ドレナージの適応であるが,病状説明やインフォームドコンセントに対する理解力がないためドレナージはむしろ危険と判断し抗生物質投与で経過観察した.2週間後のCTでAとB両嚢胞とも大きさが増大し破裂の危険性があるが,患者は病識に欠け点滴ラインを自己抜去するなどの行動も見られたのでドレナージを施行せず抗生物質投与を継続した.















さらに1週間後(3週目:下段図26〜30)のCTではAとB,2つの嚢胞ともに極端に縮小した.周囲に腹水を認めず,2週目のCTでBは胃を強く圧排しており,嚢胞Bが胃に穿破したものと考える.嚢胞Aも縮小した理由は,嚢胞Bとは膵管で連続していたものと推測する.解熱し,腹痛も消失し4日後に退院した.





参考症例(膵仮性嚢胞胃内穿破):82歳男性.10年前から慢性膵炎を繰り返している.1週間前に上腹部痛が出現し,軽減しないため来院した.膵臓の石灰化(↑)があり,膵管(白矢印)は拡張しているので慢性膵炎がある.胃を小弯側から圧排する仮性嚢胞を認める.第2病日に腹痛が消失した.1週間後のCTで仮性嚢胞は完全に消失しているが,周囲に腹水を認めないので上記症例と同様に胃内に穿破したものと思われる.残念ながら胃の内視鏡検査は施行されていない.















文献考察:膵仮性嚢胞の消化管穿通例,本邦集計8例(表)
上部消化管出血を合併した仮性膵嚢胞胃穿通に対して胃全摘術を施行した1例
  Author:志田敦男(東京慈恵会医科大学 外科), 山寺仁, 中林幸夫, 石田祐一, 穴澤貞夫, 山崎洋次
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)62巻12号 Page2900-2904(2001.12)
  Abstract:48歳男.数年前より,他院にて,仮性膵嚢胞の存在を指摘されていたが,放置していた.1ヵ月前より咳嗽と発熱が,次第に呼吸困難も出現した.胸部単純X線写真では左胸水を認めた.腹部CTでは直径6cm大の仮性膵嚢胞を認めた.血液生化学的検査により,慢性膵炎の急性増悪と診断し,保存的に治療した.しかし,第20病日に吐血し,胃内視鏡による止血は困難で,開腹手術を行った.術中診断で仮性膵嚢胞の胃体上部後壁への直接穿通を確認し,胃全摘術を行った.術後2年6ヵ月現在の経過は良好である.
追記:慢性膵炎には約10〜15%に仮性嚢胞が合併するといわれるが,その約30%に膿瘍形成,穿孔や出血(消化管出血,腹腔内出血,嚢胞内出血)などの合併症が発生する.出血は全合併症の10%を占め,死亡率は25〜40%と報告されている重篤な合併症である.嚢胞内出血の発生機序は,1.消化液の嚢胞内逆流により活性化された膵酵素が,嚢胞壁の微小血管壁を融解し出血する,2.嚢胞内圧上昇による,3.膵の炎症が隣接動静脈に波及し仮性動脈瘤を形成し,それが嚢胞内に破裂する,などの機序がいわれている. 1972年以降に本邦で仮性嚢胞が消化管穿通を起こした報告は8例である.

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