上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ12 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 59】

膵仮性嚢胞内出血.Intracystic hemorrhage of pseudocyst
3ヶ月前のCTで,胃背側から膵尾部(T)につながる嚢胞(▲)は過去に膵炎の既往歴があり,画像上はしっかりした壁を認めるので膵仮性嚢胞である.B:膵体部.





図7〜図17の大きな嚢胞性病変(△)は内部構造が不整で,腫瘍か血腫の可能性が高い.1)3ヶ月前にあった仮性嚢胞を認めない,2)図11〜図14で白矢印は正常血管(脾動脈)の可能性があるが,↑はextravasationか脾動脈瘤である(早期と晩期のDouble phase造影CTで両者の鑑別は可能である).3)病変は限局されている.以上の所見から脾動脈からの仮性嚢胞内出血と診断する.図16と図17でIVCがかなり扁平化しており大量出血を裏付ける.1週間前から次第に増強する腹痛を訴えており,その間に増大したものであろう.図Aと図Bの血管造影でextravasation(↑)を認めコイルで塞栓した(図C)が,翌日腹痛が増強したので手術を行った.壁を有する約2kgの嚢胞内血腫があり,脾動脈に穿孔を認め結紮した.















参考症例(仮性嚢胞内出血):41歳男性.アルコール性膵炎で頻回の入院歴があり,膵仮性嚢胞を経過観察中である.20時間前に突然上腹部痛と背部痛が出現し,軽快しないので来院した.6日前のCT(Plain)は均一なwater densityの内容液を含む仮性嚢胞を示しているが,下段の仮性嚢胞には高濃度の内容物を認め,血腫である可能性が高く,大きさもやや増大しており仮性嚢胞内出血と診断した.保存的治療で症状は軽快した.










文献考察1):膵仮性嚢胞に伴う仮性動脈瘤破裂,本邦集計49例(表1,表2)
膵頭部仮性嚢胞内仮性動脈瘤破裂の1治験例
  Author:神保雅幸(岩手県立花巻厚生病院 外科), 遠藤忠雄, 郷右近祐司, 関根義人, 田澤秀樹, 菅井有
  Source:臨床外科(0386-9857)59巻7号 Page909-914(2004.07)
要旨:膵仮性嚢胞の合併症の中で出血は10%程度でまれである.出血の伸展形式は,1.出血が嚢胞内にとどまる,2.嚢胞内出血後,嚢胞が破裂し腹腔内または後腹膜腔へ出血する.死亡率36.7%と予後が最も悪い.3.嚢胞内出血の後膵管や近接消化管に破裂し出血する.膵管経由の消化管出血はhemosaccus pancreaticusと呼ばれる.本邦集計によると年齢は平均48.6と若く,95%以上が男性で,半数以上がアルコール性慢性膵炎例である.

文献考察2):膵仮性嚢胞に伴う仮性動脈瘤破裂,本邦集計25例(表3)
経過観察中に膵仮性嚢胞内に破裂出血した脾仮性動脈瘤の1例
  Author:多保孝典(林病院 外科), 林秀樹, 土田千賀, 小野寺久
  Source:日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)36巻5号 Page389-394(2003.05)
要旨:最近15年間の,膵仮性嚢胞に伴う仮性動脈瘤25例の集計で,男性が24人,平均年齢は50歳,発生原因は21例が飲酒,1例が外傷であった.発生部位は脾動脈が16例,胃十二指腸動脈領域が6例,左胃動脈が2例,中結腸動脈が1例であった.

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