上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ12 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 57】

輸入脚症候群・急性膵炎.Afferent loop syndrome with acute pancreatitis.












図2〜図16で膵(T:尾部,B:体部,H:頭部)実質がdensityが低下しやや不均一となっており,周囲に液貯留(※)を認めるので急性膵炎である.拡張した腸管は何か? 胃切時にBillroth II法で再建されているので図6の1は十二指腸断端部であり,そこから肛門側へ追跡するとSMAとSMVの背側を左側へ移行し,図20の25あたりから空腸となる.追跡を続けると図13の64で閉塞するので輸入脚症候群(afferent loop syndrome)と診断できた.手術で同所見が確認された.図Aは手術記録からの図.

















参考症例(afferent loop syndrome):57歳男性.1年前十二指腸潰瘍穿孔のため胃部分切除(Billroth-II法で再建)を受けた.3日前から持続する上腹部痛のため来院した.上腹部に圧痛があるがsoft and flat.血清amylase値:1130 IU/L.
図1〜図4で膵臓(T:尾部,B:体部,H:頭部)が描出されているが,腫大,不均一性や周囲の炎症所見を認めず急性膵炎はないと解釈する.図3の1が胃切(B-II再建)の十二指腸断端閉鎖部で,尾側へ拡張し図10で閉塞するが,図8の22でbeak sign(↑)を呈しそこが閉塞部位である.従って輸入脚症候群の診断がついた.輸入脚症候群で血清amylase値が上昇しているが急性膵炎はない症例である.NGチューブを挿入し保存的に治癒した.










文献考察1):輸入脚症候群(afferent loop syndrome)
急性膵炎を合併した胃切除後急性輸入脚閉塞症の1例
  Author:海老規之(麻生飯塚病院), 長崎明利, 合屋和弘, 他
  Source:胆と膵(0388-9408)16巻2号 Page161-165(1995.02)
要約:症例は76歳男性, 48歳時に胃潰瘍でBillroth II法による胃切除を受けた。上腹部痛を主訴に来院, 血清アミラーゼの著増を認め, 急性膵炎として入院。 経過中の腹部CTにて,十二指腸下行脚,下水平脚と考えられる腸係蹄の著しい拡張と胆嚢の腫大を認め,急性輸入脚閉塞症が疑われた。膵炎の内科的治療により,一時症状の軽快を認めたが,黄疸も出現し,緊急開腹となった. 開腹所見では結腸後逆蠕動性胃空腸吻合が施行されており, Braun吻合はなされていなかった。輸入脚と結腸間膜の間に輸出脚が陥入,内ヘルニアとなり,絞扼されて壊死寸前の状態を呈し,一方,輸入脚は後方からの圧迫により著しく拡張,緊満した状態となっていた。また胆嚢は腫大し,膵は浮腫状を呈していた。ヘルニアを解除,整復し,輸出入脚間にBraun吻合を施すことにより,血行障害は改善,通過障害は除去された。術後,症状は改善し,膵炎所見も消失し,その後の経過は順調であった。
追記:本症では血清アミラーゼ値が上昇することが多く(約80%),急性膵炎の合併例が多い.原因は,十二指腸で活性化された膵酵素が輸入脚閉塞により膵管に逆流するためとする説と,十二指腸内圧の亢進により膵実質の循環障害をきたすためとする説があるが,両者が大きな要因と考えられている.

文献考察2):輸入脚症候群
【新術前・術後管理マニュアル-時間経過に即した患者管理の全て-】 術後合併症とその管理 消化器系 輸入脚症候群(解説/特集)
  Author:豊田昌夫(大阪医科大学 一般消化器外科), 谷川允彦
  Source:消化器外科(0387-2645)21巻5号 Page899-900(1998.04)
要旨:胃切後Billroth II法で再建された後に,輸入脚に表1のような原因で機械的閉塞が起こり,輸入脚に胆汁や膵液が停滞し特有な症状を呈する症候群である.急性型と慢性型に分類される(表2).急性型は急性腹症として扱われ,十二指腸断端部破裂や輸入脚の壊死をきたすと予後不良となるため,可及的早期に手術を行うべきである.

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