上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ11 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 51】

急性膵炎.Acute pancreatitis




膵臓は門脈左側縁の部位を頚部,頚部から脾臓左側先端までを2等分して体部と尾部,頚部から右側を頭部(頸部と鈎状突起を含む),SMA後部を鉤状突起と命名されている.急性膵炎のCT所見は,1:腫大.膵頭部で椎体の横径以上,体尾部で椎体の横径の2/3以上を腫大とする.SMA周辺はSMAから放線状に計測するが,体尾部の計測の際脾静脈を,頭部は十二指腸を含めないよう気を付ける.2:膵周囲の炎症所見(液貯留,浮腫),3:膵実質の濃度の不均一化の3点である.急性膵炎で膵腫大が認められる例は多くなく,CT診断には2の膵周囲の炎症所見が中心となる.
 図6で膵尾部と体部(白線),図8の頭部(黒線)の大きさは上記基準を満たし膵臓全体が腫大している.図6〜図8で左前腎傍腔に(▲),図9と図11には右前腎傍腔に液貯留(境界鮮明で均一)があり(▲:図1の胃液※や図2の胆汁※よりdensityが高いのは血性であることを示唆し,出血性膵炎を疑う),図8と図11の△は浮腫(境界不鮮明で不均一)である.膵臓は低濃度の部分が混在し不均一であり,上記3所見を満たし典型的な急性膵炎像を呈している.図7で総胆管CBDの拡張はなく,乳頭部付近で結石を認めないので胆石膵炎の可能性は低いが否定はできない.膵壊死の有無の診断は単純CTでは不可能であり,造影CTが必須である.図4と図5のIVCは平坦化しており高度の循環血液量不足(血圧:100/64mmHg,脈拍:102/分)を意味するので,十分な輸液を投与し速やかに改善することが急性膵炎の治療として極めて重要である.膵炎で膵酵素が活性化される機序はまだ不明だが,その機序を阻止するには膵臓への十分な血流量を保つことが最も大事であり,循環血液量不足の状態が続けば腹腔臓器の血管は血液の再分配のために攣縮を起こし膵への血流量が減少するからである.








参考症例(急性膵炎):40歳男性.日頃から飲酒の機会は多い.5,6時間前からの上腹部痛のため来院した.体温:37.4,腹部は左上腹部に軽度の圧痛があるのみ.下記画像で膵腫大はなく,周囲に脂肪組織の濃度上昇も認めず急性膵炎との診断はできない.血清amylase値は正常.腹部エコー検査でも異常を認めなかった.





2日後も腹痛は持続し,血清amylase値が上昇したのでCTの再検査を行った.膵腫大はないが,浮腫(△)と前腎傍腔に液貯留(▲)を認め,急性膵炎である.まれだが,このように初診時のCTや腹部エコー検査で急性膵炎の診断はできないことがある.





文献考察:急性膵炎の疫学
【急性膵炎 重症化機序とその対策】 急性膵炎の疫学, 再発率, 死因, 長期予後
  Author:今村幹雄(国立病院機構仙台医療センター 外科)
  Source:日本臨床(0047-1852)62巻11号 Page1993-1997(2004.11)
要旨:厚生省特定疾患対策研究事業・難治性膵疾患に関する調査研究班の平成11年度総合研究報告書による集計(表)から.成因別ではアルコール性(30.1%),胆石(23.9%)と特発性(22.7%)が3大成因で大部分を占める.重症例の頻度はアルコール性で高く37.3%(男性では48.8%),胆石性では軽症と中等症が80%を占め,特発性では軽症,中等症,重症がほぼ同数ずつみられる.

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