文献考察1):膵・胆管合流異常と胆嚢癌
【胆道疾患の臨床 最近の進歩】 胆道癌 膵・胆管合流異常と胆嚢癌
Author:土田明彦(東京医科大学 外科学第三講座), 粕谷和彦, 遠藤光史, 小澤隆, 青木利明, 青木達哉
Source:臨床消化器内科(0911-601X)20巻7号 Page1010-1014(2005.05) 要旨:日本膵管胆道合流異常研究会の診断基準では,合流異常は「解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天奇形であり,機能的に十二指腸乳頭部括約筋(Oddi筋)の作用が合流部に及ばないため,膵液と胆汁の相互混入(逆流)が起こり,胆道ないし膵にいろいろな病態を引き起こしうるもの」と定義されている.この膵液と胆汁の相互混入に,細菌感染や膵管あるいは胆管内圧の上昇,エンテロキナーゼの作用などが加わると,膵酵素は容易に活性化される.活性化膵酵素のなかで,トリプシンはフオスフォリパーゼA2を活性化する.フオスフォリパーゼA2は,膵管や胆道上皮に対する強力な破壊作用をもち,さらに,胆汁中のレシチンを細胞膜傷害作用の強いリゾレシチンや遊離脂肪酸に変換する.また,胆汁酸も組織傷害作用をもつが,とくに二次胆汁酸はそれ自体の傷害性に加えて,フオスフォリパーゼA2活性を助長する.これらによって,胆道粘膜は長期にわたって傷害されて,細胞回転が亢進し,過形成,化生,異形成などのさまざまな上皮の変化をもたらし,最終的に発癌する.
合流異常の胆道癌発生率はきわめて高く,一般の胆道癌に比べて5〜35倍高い.日本膵管胆道合流異常研究会が行った過去10年間の全国集計によると,全体では1,627例中278例(17.1%)に胆道癌を合併していた.このうち,拡張型1,239例では131例(10.6%)に胆道癌(胆嚢:85例,胆管:44例,不明:2例)を合併した.一方,非拡張型388例では147例(37.9%)に胆道癌(胆嚢:137例,胆管:10例)を合併した.従来の教科書には,「拡張型は胆管癌が多く,非拡張型は胆嚢癌が多い」と記載されているが,いずれの場合も胆嚢癌が多く,とくに非拡張型では大部分が胆嚢に発癌することが明らかとなった.
文献考察2):分流手術後も胆管癌の発生は少なくない.14例の集計(表) 先天性胆道拡張症術後26年を経過して発生した肝内胆管癌の1例
Author:鈴木修司(八王子消化器病院), 天野久仁彦, 原田信比古, 田中精一, 林恒男, 鈴木衛, 羽生富士夫, 平野宏
Source:日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)37巻4号 Page416-421(2004.04)
Abstract:46歳男.先天性胆道拡張症で総胆管,胆嚢切除,総肝管空腸Roux-Y端側吻合を施行された.心窩部痛,背部痛を認め,CT,MRIで肝腫瘤,肝内胆管の肝門部狭窄を認めた.CA19-9,CEA異常高値,CRP高値以外は異常値を認めなかった.腹部CTでS4に30mm大腫瘤と肝十二指腸間膜から総肝動脈沿いにリンパ節腫大を認め,腫瘤は左門脈枝に浸潤し,右肝管を狭小化していた.また,低密度域は微小肝膿瘍で術前経過中に消失していた.MRCPでは肝内胆管拡張,肝門部での左肝管中心に右肝管に及ぶ肝内胆管の狭窄を認めた.胆道ドレナージを施行し,開腹手術したが,高分化型腺癌で,術後肝不全の進行で死亡した.
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