上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ10 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 50】

先天性胆道拡張症(または胆嚢重複症)・胆嚢癌・胆管炎. Congenital CBD dilatation (or Duplication of gallbladder )・cancer of gallbladder・cholangitis.








図3〜図6の肝臓病変(白矢印)は不整に造影され,転移性腫瘍の可能性が極めて高い.図5〜図19のGBが胆嚢と思われるが,図8〜図12で不整に造影される部分的な壁肥厚を認め(↑),腫瘍性病変を考慮すべきである.図3〜図16の※が著明に拡張した総胆管で,先天性胆道拡張症と診断するのが常識的であろう.図4〜図15で正常の総胆管(CBD)を認めるので,胆道拡張症であれば戸谷分類のType II である.しかし,図14の△は頭側へ上行し図5の正常総胆管に連結する.その長さを考慮すると胆嚢管のように見え,拡張した病変※は胆嚢重複症である可能性もある.図6〜図12のLは腫大したリンパ節で,胆嚢病変が悪性腫瘍であることを裏付ける.図17〜図20では脂肪組織の濃度上昇を認め(▲),※病変に炎症が加わっていることを示唆し,発熱の原因であろう.Du:十二指腸.最上段の図AはPTBD(Percutaneous Transhepatic Biliary Drainage )チューブからの胆道造影である.胆道拡張症と思われる病変は造影されておらず,楕円の部位に位置するものと思われる.










参考症例(先天性胆道拡張症,Plain CT):36歳女性.喘息を治療中以外既往歴はない.5日前上腹部痛が出現し.特に食後に強い.前日上腹部痛に伴って嘔吐3回あり来院した.嚢胞状の構造物を数個認めるが,まず胆嚢はどれかを同定する.肝下面にあって図9の8で盲端になるものを頭側へ逆行性に追跡すると図6でAと合流する.Aは尾側へ追跡すると図9のEで膵頭部内に位置するようになり図11で盲端になるので総胆管である.従って図6の1〜図9の8は胆嚢であり,図4と図5の※は総肝管で,Rは右肝内胆管,Lは左肝内胆管ということになる.先天性胆道拡張症(CDBD:congenital dilatation of bile duct)であり,戸谷分類のA型で胆嚢管の欠損の所見が加わる.図AはMRCP画像でCT所見と一致する.










文献考察1):膵・胆管合流異常と胆嚢癌
【胆道疾患の臨床 最近の進歩】 胆道癌 膵・胆管合流異常と胆嚢癌
  Author:土田明彦(東京医科大学 外科学第三講座), 粕谷和彦, 遠藤光史, 小澤隆, 青木利明, 青木達哉
  Source:臨床消化器内科(0911-601X)20巻7号 Page1010-1014(2005.05)
要旨:日本膵管胆道合流異常研究会の診断基準では,合流異常は「解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天奇形であり,機能的に十二指腸乳頭部括約筋(Oddi筋)の作用が合流部に及ばないため,膵液と胆汁の相互混入(逆流)が起こり,胆道ないし膵にいろいろな病態を引き起こしうるもの」と定義されている.この膵液と胆汁の相互混入に,細菌感染や膵管あるいは胆管内圧の上昇,エンテロキナーゼの作用などが加わると,膵酵素は容易に活性化される.活性化膵酵素のなかで,トリプシンはフオスフォリパーゼA2を活性化する.フオスフォリパーゼA2は,膵管や胆道上皮に対する強力な破壊作用をもち,さらに,胆汁中のレシチンを細胞膜傷害作用の強いリゾレシチンや遊離脂肪酸に変換する.また,胆汁酸も組織傷害作用をもつが,とくに二次胆汁酸はそれ自体の傷害性に加えて,フオスフォリパーゼA2活性を助長する.これらによって,胆道粘膜は長期にわたって傷害されて,細胞回転が亢進し,過形成,化生,異形成などのさまざまな上皮の変化をもたらし,最終的に発癌する.
 合流異常の胆道癌発生率はきわめて高く,一般の胆道癌に比べて5〜35倍高い.日本膵管胆道合流異常研究会が行った過去10年間の全国集計によると,全体では1,627例中278例(17.1%)に胆道癌を合併していた.このうち,拡張型1,239例では131例(10.6%)に胆道癌(胆嚢:85例,胆管:44例,不明:2例)を合併した.一方,非拡張型388例では147例(37.9%)に胆道癌(胆嚢:137例,胆管:10例)を合併した.従来の教科書には,「拡張型は胆管癌が多く,非拡張型は胆嚢癌が多い」と記載されているが,いずれの場合も胆嚢癌が多く,とくに非拡張型では大部分が胆嚢に発癌することが明らかとなった.

文献考察2):分流手術後も胆管癌の発生は少なくない.14例の集計(表)
先天性胆道拡張症術後26年を経過して発生した肝内胆管癌の1例
  Author:鈴木修司(八王子消化器病院), 天野久仁彦, 原田信比古, 田中精一, 林恒男, 鈴木衛, 羽生富士夫, 平野宏
  Source:日本消化器外科学会雑誌(0386-9768)37巻4号 Page416-421(2004.04)
  Abstract:46歳男.先天性胆道拡張症で総胆管,胆嚢切除,総肝管空腸Roux-Y端側吻合を施行された.心窩部痛,背部痛を認め,CT,MRIで肝腫瘤,肝内胆管の肝門部狭窄を認めた.CA19-9,CEA異常高値,CRP高値以外は異常値を認めなかった.腹部CTでS4に30mm大腫瘤と肝十二指腸間膜から総肝動脈沿いにリンパ節腫大を認め,腫瘤は左門脈枝に浸潤し,右肝管を狭小化していた.また,低密度域は微小肝膿瘍で術前経過中に消失していた.MRCPでは肝内胆管拡張,肝門部での左肝管中心に右肝管に及ぶ肝内胆管の狭窄を認めた.胆道ドレナージを施行し,開腹手術したが,高分化型腺癌で,術後肝不全の進行で死亡した.

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