下腹部痛シリーズ(Lower Abdominal Pain) 5 RESIDENT COURSE 解答 【症例 LR 24】

腹部大動脈瘤破裂.ruptured AAA(Abdominal Aortic Aneurysm)




約7cm大の腹部大動脈瘤(AAA:Abdominal Aortic Aneurysm)がある.瘤内の背側部の,正円形のやや低濃度の部分※が血流のある真の内腔で,その前面の,三日月型のやや高濃度の部分は瘤内の古い血腫である.図8〜図10でその血腫の中に,さらに高濃度の小さい三日月像(↑)はcrescent signで,古い血腫の中の新鮮な血腫を意味し,破裂例や切迫破裂例によく見られるsignである.図1〜図8で肝周囲に肝実質よりも高濃度の腹水がある(△).肝嚢胞より高濃度で肝実質より低濃度であれば血液または血性腹水だが,肝実質より,大動脈の血液より高濃度だから血腫と解釈すべきである.腹痛を訴え7cm大のAAAがあり,crescent signがあり,腹腔内に血腫があり,他に出血を起こすような病変がなければAAAの破裂と診断する,腹腔内血腫は大量でなく,血圧と脈拍数も正常だからおそらく一時的に止血した破裂との診断となる.すべての画像で下大静脈(IVC)が虚脱し,強い循環血液量不足を意味する.手術はしない方針が決定され,患者は2日後に急死した.








文献考察: Fitzgeraldの分類とRutherford分類
1)Fitzgerald JF, Stillman RM, Powers JC. A suggested classification and reappraisal of mortality statistics for ruptured atherosclerotic infrarenal aortic aneurysms. Surg Gynecol Obstet. 1978 Mar;146(3):344-6.
要旨:破裂による出血の部位的進展についてはFitzgeraldの分類がある.1)壁内血腫または破裂近辺に存在する小さい限局性出血(死亡率:0%),2)血腫が腎動脈より尾側にのみ存在するもの(37.5%),3)血腫が腎動脈上方に,下方には骨盤腔内に拡がるもの(62.5%),4)遊離腹腔内への出血(91.6%).

2)森景則保, 秋山紀雄, 古谷彰, 吉村耕一, 瀬山厚司, 竹中博昭, 濱野公 破裂性腹部大動脈瘤の手術成績と予後因子 日本血管外科学会雑誌 12巻2号 Page87-91.2003.
Abstract:対象は45例で手術死亡は14例であり,直接の死亡原因はショックからの離脱不能例6例,結腸壊死4例の順であった.因子ではRutherford分類レベル1:疼痛のみで低血圧なし,レベル2:一過性低血圧で治療に良好反応,レベル3:持続性または反復性低血圧,治療に不完全反応で尿量低下,レベル4:持続性低血圧で治療に無反応),レベル1・2の31例中3例,レベル3・4の14例中11例が死亡し,来院時ヘマトクリット(Ht)値は手術死亡群で有意に低かった.術中因子では出血量,輸血量が手術死亡群で有意に多く,術後合併症は腎不全,3・4,輸血量6000ml以上,術後結腸壊死と腎不全が手術死亡の有意な危険因子となり,多変量解析では結腸壊死のみが手術死亡の有意な危険因子であった.特に術後結腸壊死を防ぐことにより手術成績の向上につながることが示唆された.

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