上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ7 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 34】

絞扼性小腸閉塞・腸管壊死.Strangulated obstruction with necrosis








小腸だけの拡張だから小腸閉塞である.図1で厚さ2cmを超える大量の腹水があり(※),拡張した小腸はgaslessで,図6〜図8で腸間膜間腹水貯留(浮腫より進行した所見)を認め(▲),絞扼性小腸閉塞の可能性は極めて高い.図24から追跡を始めるとAと1は共に図6の↑で閉塞する.図6〜図4の丸数字1が単純閉塞の,ガスで拡張した小腸と思われ,図5と図6で虚脱した小腸(SB)があり,100cm以上と推測される長さのclosed loopである.全体的に小腸壁の造影効果は強いから壊死はなさそうであるが,図9〜図11のI〜K(△)の腸管は壁肥厚を呈し,その下段の単純CTで高濃度を示している(白矢印)ので出血性壊死を強く示唆する.しかし,その部分以外の小腸には壁肥厚を認めずviableと思われる.図8の小腸Bは連続性がなく閉塞部位に見えるが,周囲に虚脱した小腸を認めないので連続するものと解釈する.12時間後には腹膜刺激症状を認め手術となった.Treitz靱帯から20cmの部位で,索状物により約135cm長の空腸がclosed loopを形成し,壊死に陥った絞扼性小腸閉塞が確認された(図Aと図B).


















文献考察:closed loop obstruction
1)腸管虚血の画像診断】 絞扼性イレウス
  Author:古川顕(滋賀医科大学 放射線), 山崎道夫, 前田清澄, 高橋雅士, 村田喜代史, 永田保, 横山堅志, 坂本力
  Source:画像診断(0285-0524)21巻6号 Page612-618(2001.05)
  Abstract:捻転をはじめとする閉ループ閉塞,絞扼性イレウスに対するCT診断について解説した.CTは腸管のみならず腸間膜,腸間膜血管,腹膜腔の病態を描出するため,腸管虚血に対する診断能が高い.CTは腸管閉塞膜症が疑われて腹部単純X線写真で確定診断が得られない場合や,腸管虚血が疑われる全症例に施行すべきである.
追記closed-loop obstructionは,消化管の離れた2点が1か所で締め付けられ,その間の腸管が閉鎖腔を形成して拡張する特殊な形態の腸管閉塞症である.閉鎖腔に相当する腸管はclosed loopと呼ばれ,その長さは症例によりさまざまである.closed-loop obstructionの原因は,癒着性のバンドによるものが多いが,内・外ヘルニアの嵌頓によるもの,腸の回転異常を伴う軸捻転によるものなどが挙げられる.closed-loop obstructionは必ずしも循環障害を伴う病態ではないが,腸管閉塞部で腸間膜血管が圧迫されやすいこと,また,閉塞部を中心に軸捻転を起しやすい傾向にあることから絞扼性イレウスを発症しやすい. closed-loop obstructionのCT所見としては,C字型,U字型,あるいは放射状に広がった拡張腸管像,閉塞部位に向かって扇状に収束する腸間膜血管像などが挙げられる.また,閉塞部位においては”beak sign”,”whirl sign”,腸間膜動静脈の位置逆転像,三角状を呈した腸管像,ともに虚脱して隣接する腸管像などが観察される.大腸のclosed loopはガスを貯留して”coffee bean”状に認められるものが多いが,小腸ではガスを含まず腸液で充満しているものが大部分である.

2)Gastroenterol Clin North Am. 2002 Sep;31(3):777-99.
Intestinal obstruction role of CT.
Frager D.

CT has significantly advanced the evaluation of small and large bowel obstruction, especially in the acute situation where high-grade or possibly strangulating obstruction is being encountered. Any physician involved in evaluating patients with bowel distention and abdominal pain where obstruction becomes a distinct diagnostic possibility should be aware of the attributes and limitations of this modality to provide the best patient care. New technological advances will hopefully limit radiation exposure and provide even more definitive information in the diagnosis of bowel obstruction.PMID: 12481731
要旨:closed-loop obstructionのCT所見は上記文献のとおりであるが,500例の小腸閉塞手術例で60%に術前確定診断が可能であった.(私見:腸管の追跡を行えば80%以上に診断可能と考える)

 【 ←前の問題 】   【 次の問題→ 】  【 このシリーズの問題一覧に戻る 】 【 演習問題一覧に戻る 】