上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ7 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 31】

小腸軸捻転.Torsion of small bowel.












図1〜図4と,図18〜図20で腹水を認める(※).図1でそのdensityが測定されているが30HU以下だから血液ではないが,薄い血性腹水の可能性は残る(水は5〜10程度).拡張した小腸は,骨盤腔内の小腸以外はgasless(ガスを全く含まないか,あっても断面面積の半分以下の少量)とは言えず,しかも壁の造影効果は良好だから単純性閉塞の可能性が高いが,腹水量と図9〜図16の著明な腸間膜浮腫(▲)を考慮すると絞扼性小腸閉塞も否定できない.図20から例のごとく追跡すると,Aは図12のIでbeak sign(↑)を呈して閉塞する.1は図4の34まで進んだが,図4の34と図5の33はガスだけで拡張した状態であり,壁の造影効果も良好なことからclosed loopの小腸ではないと判断した.すなわち図9〜図12のTIは閉塞部位に連続する虚脱した回腸末端であり,図12の↑での単純閉塞で,腸管壊死はないとの診断である.翌日腹痛と腹部所見の改善が見られないため,血管造影を施行した.図Aで△は時計回りに捻転した回腸盲腸動脈を示し,図Bでは空腸に比べ回腸壁の造影不良を描出しており(白矢印),回腸軸捻転と診断し手術となった.血性腹水300mlを認め,盲腸から20cmの部位で腸間膜がS状結腸に癒着し,そこを起点に回腸約150cmが時計方向へ270度軸捻転を起こし暗赤色に壊死に陥っていた(図C:切除標本).Retrospectiveに画像を見れば,図11の丸数字1の小腸は頭側へ上行し,図4で34と連結するとみられ,closed loopである.Whirl signを認めないので血管造影が有用であった症例である(下記文献参照).腹水量と腸間膜所見から,翌日まで待たずにガストログラフィン造影を施行するか,または血管造影を行うべきであったと反省した.













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文献考察:小腸軸捻転の血管造影による診断
J Vasc Interv Radiol. 2000 Jul-Aug;11(7):869-74.
Mesenteric angiography in the diagnosis of volvulus.
Falk A, Mitty HA, Firestone M, Kanner B, Patel R PMID: 10928524(full text)
追記:小腸捻転の血管造影所見は,1)血管の渦巻状の走行異常(図),2)血管の先細りまたは途絶,3)拡張した腸管への血管の変異や,伸展された血管,4)捻転した腸管とその血管が腹部中心線を越えて左右に広がる,5)捻転部血管の造影の遅れや造影消失の遅れ,6)静脈が造影されない.

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