上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ6 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 30】

単純性小腸閉塞.Simple small bowel obstruction








図5〜図8で下行結腸(△)は虚脱し上行結腸(▲)に拡張はなく,小腸だけの拡張だから小腸閉塞の可能性が高い.図1と図2で大量の腹水(※)を認め拡張した小腸は大部分がgaslessであるが,腸管壁の造影効果は良好で,壁肥厚もなく,腸間膜の濃度上昇も認めないので単純性閉塞を疑う.かなり長い小腸の拡張だから腸管の追跡は困難と思われるが,一応図20からスタートしてみる.Aは図の数字のごとく困難なく進行し,図9で隣接する虚脱した小腸(SB)がありPで閉塞することで納得できる.他方1は図7の13まで進んだが,その先は不明.しかし,図9の閉塞部位近辺にもう一つの閉塞部位は確認できないのでclosed loopではなさそうである.イレウスチューブを挿入したが腹痛は増悪したので2日目に手術となった.盲腸から45cmの部位(回腸)が横行結腸間膜に癒着屈曲し閉塞の原因となっていた.癒着剥離を行い,術後は順調に経過した.単純性小腸閉塞で大量の腹水を認めるのは,長時間放置された症例以外まれである.腹膜刺激症状がなく,CTで絞扼性小腸閉塞を示唆する所見が3つ以上なく,腸管壁が良好に造影されており,closed loopか単純性閉塞かの鑑別診断が不可能であれば数時間経過観察してよい.CTで3所見以上を認める例,数時間経過観察後症状と腹部所見の改善が見られなければガストログラフィン造影CT検査(症例EE16を参照)を推奨する.













文献考察:小腸閉塞
【癒着性イレウスに対する保存的治療の限界と手術のタイミング】 小腸機械的イレウスの手術適応と術後成績
  Author:赤川高志(大垣市民病院), 山口晃弘, 磯谷正敏, 原田徹, 金岡祐次, 高橋吉仁, 李政秀, 菅原元, 鈴村潔, 小川敦司, 森俊治, 北尾俊典
要旨:機械的イレウス1061例中手術が施行された症例は417例(39.3%:癌性腹膜炎,外ヘルニア嵌頓および小児腸重積症は除外),その中で腸切除を必要とした絞扼性イレウスは60例(14.4%),絞扼性イレウスであったが腸切除を必要としなかったのは106例(25.4%),単純性イレウスは251例(60.2%).各々の死亡率は15.0%,2.8%と3.6%,全例で5.0%であった.

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