上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ5 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 25】

小腸捻転による小腸壊死.Volvulus of jejunum with necrosis.






肝臓と脾臓周囲に少量の腹水がある(※).拡張した小腸はgaslessで,図6の小腸(SB)や図8の小腸に比較して壁の造影がやや弱く,腸間膜間液貯留(図10と図11:▲)を認め,絞扼性小腸閉塞を強く疑う.図15のAと1からスタートして拡張した小腸を追跡すると,図5の↑はbeak signを示し,図4のPと36で閉塞しclosed loopである.図6で虚脱した小腸(SB)があり,図5の白矢印もbeak signを呈しているが単純閉塞小腸の起始部であろう.図5の△は天気図の台風のように反時計方向に渦巻いており,腸管または腸間膜のwhirl sign血管のwhirl signについてはExpert Courseで後述)であり腸管軸捻転を強く示唆する重要な所見である.従って診断は捻転による小腸の壊死または高度の虚血状態となる.手術所見:約80cm長の空腸が反時計方向に360度捻転し,暗赤色に壊死に陥っていた.










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文献考察:小腸軸捻転症
1)成人にみられた原発性小腸軸捻転症の1例
  Author:本田晴康(健和会病院 外科), 津澤豊一, 川田崇雄, 熊谷嘉隆
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)65巻1号 Page112-116(2004.01)
 Abstract:32歳男.主訴は上腹部痛.腹部CT検査で胃・小腸の拡張,小腸壁の一部肥厚,腹水が認められた.また,上腸間膜動静脈周囲を小腸が渦巻き状に巻き込む腫瘤像(Whirl sign)が認められた.絞扼性イレウスと診断し,発症4時間半後に緊急手術を施行した.中下腹部正中切開で開腹すると血性及び乳糜腹水が中等量認められた.小腸は腸間膜根部で時計回りに360°捻転しており,ほぼ全域にわたって発赤し,浮腫状であった.捻転を解除したところ腸蠕動が認められるようになり,色調も改善傾向が認められた.腹腔内には癒着,異常索状物,腸回転異常,Meckel憩室などは認められず,原発性小腸軸捻転症と診断した.術後経過は良好であったが,2ヵ月後に癒着性イレウスを発症した.イレウス管による保存的治療で改善し,10日間の入院治療で治癒した.
追記:小腸捻転症は,1.先天性:新生児期の腸回転異常や腸間膜固定不全など,2.原発性:基礎的な疾患や解剖学的な異常が認められないもの,3.二次性:術後癒着,Meckel憩室や腫瘍などが関与するもの,に分類される(表3).本邦集計46例は表1.死亡率は13.3%と高い.

2)続発性小腸軸捻転症の1例
  Author:久田将之(花輪病院), 佐嶋健一, 花輪聰, 青木達哉, 小柳泰久
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)63巻7号 Page1696-1699(2002.07)
  Abstract:67歳男.突発的な心窩部痛と腹部膨満感を主訴とし,鎮痛剤で経過観察されていたが,その後心窩部痛および腸閉塞症状が出現した.腹部CTではwhirl signがみられ,腹部血管造影ではbarber pole signを認めた為,小腸軸捻転症の診断で手術を施行した.空腸は上腸間膜動脈を中心に反時計回りに180°回転しており,その腸間膜は虫垂と炎症性癒着を起こしていた.腸管壊死は認めなかった為,捻転解除術及び虫垂切除術を施行した.
追記:本邦集計46例.CT検査施行例21例中16例にwhirl signを認めた.続発性と原発性の症例数はほぼ同数(表2).続発性は,ショック例,腸管壊死例,緊急手術例,死亡例が原発性を大きく下回っており,前駆症状を伴い慢性的に経過する症例が多い.

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