上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ5 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 21】

絞扼性小腸閉塞(壊死なし).Strangulated obstruction with no necrosis. 






図2で右結腸の拡張(外径>8cm)はなく左結腸は虚脱しており,拡張しているのは小腸(外径2.5cm以上)だから小腸閉塞である.麻痺性イレウスでは多くの場合右側結腸も液状内容物で拡張を示す.図1の上腹部には腹水を認めないが,図10〜図12の骨盤腔内に少量あり(※),拡張した小腸はgaslessである.図7〜図11の拡張した腸管の腸間膜は示されていないので2所見しかないが,小腸ループの長さは短そうなので追跡してみる.図11からスタートすると,Aは図5のHで,1は図4の9で閉塞し,図3に虚脱した小腸(SB)を認めるので追跡した腸管はclosed loopを形成している.図3の↑はbeak signを呈し,丸数字1から図2の丸数字8が口側の単純閉塞の小腸である.Closed loopの小腸は壁肥厚はなく,壁の造影効果は良好で壊死はないと診断する.次第に腹痛が増強してきたので手術となった.S状結腸と回腸間膜間にbandがあり,それによりclosed loopを形成し回腸50cm程の絞扼性小腸閉塞であったが壊死所見はなくband切離のみ行った.






文献考察:急性腹症患者の腹部診察
1)Emerg Med Clin North Am. 2003 Nov;21(4):873-907
Surgical complications of selected gastrointestinal emergencies: pitfalls in management of the acute abdomen.
Newton E, Mandavia S.

Complaints referable to the abdomen are common emergency department presentations. Many of these conditions prove to be benign and self-limited, whereas others are potentially catastrophic. Because serious and benign intra-abdominal conditions share many relatively nonspecific symptoms, it is often difficult to identify patients who have life-threatening problems early in the course of their disease. Apart from relieving the patient's symptoms, the emergency physician's primary role is to detect and stabilize life-threatening conditions in a rapid and cost-effective manner.PMID: 14708812
追記:腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順で行うべき.

2)【消化器外科領域の緊急手術・処置】 急性腹症患者の診断の流れ 
  Author:石倉宏恭(関西医科大学高度救命救急センター 救急医学科), 中谷壽男
  Source:外科(0016-593X)65巻3号 Page249-255(2003.03)
  Abstract:急性腹症に対する確定診断にいたるまでのアプローチ法について概説した.腹腔内には多岐の診療科にまたがる様々な臓器が存在するため,急性腹症の原因確定は的確な診断手順で診察をすすめ,確定診断にいたる能力が必須である.加えて,「急性腹症」患者に遭遇したさいに最も重要なことは,腹痛の原疾患に対してただちに緊急手術を実施しなければならないか否かの判断を速やかに決定することである.
追記:腹部の身体所見を観察する場合は視診,聴診,打診,触診の順で腹部全体に実施する.腸雑音は亢進,低下あるいは消失程度の確認をする.金属性有響音(high pitched,metallic consonating sound)の聴取を見逃さないために少なくとも5分間聴取する必要がある.

3)【小児の救急医療 知っておくべき対処法】 小児の急性腹症の診断と治療
  Author:野口啓幸(鹿児島大学 医学部 小児外科), 高松英夫, 田原博幸, 加治建, 村上研一, 坂本浩一
  Source:小児科(0037-4121)44巻3号 Page315-323(2003.03)
  Abstract:小児の急性腹症の原因疾患は,年齢層によって好発疾患があり,病態別では急性腹膜炎,腸管閉塞,臓器の血行障害,その他に分類される.その原因疾患の診断は,必ずしも容易ではないが,急性腹症では病状の進行が早く急変することも多いために,手術の時機を失することのないよう,必要最小限の検査で手術が必要か否かを決定するよう心掛けるべきである.急性腹症の治療に関しては,いくつかの新しい方法が導入され,特に腹腔鏡下手術は,急性腹症の診断と治療を兼ね備えた手技であり,患児のQOLの面からみても優れた方法である.今後は,適応の拡大が期待される.
追記:触診を行うと腸雑音は誘発されるため触診より先に聴診を行う.

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