上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ18 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 87】

空腸粘膜下脂肪腫による重積.Intussusception with submucosal lipoma of jejunum








図5〜図8で結腸(上行結腸:A,下行結腸:D)は虚脱しているので拡張しているのは小腸である.図8の十二指腸(Du)から連続する空腸1から追跡してみると,図15の31から図16で閉塞するので,上部空腸の閉塞と拡張であり,図12と図13の↑はbeak signで閉塞部位である.図10〜図12で白矢印が陥入部で,図11〜図13の▲は腸管内の血管を含む脂肪組織,すなわち腸間膜であり,腸重積と診断できる.図10〜図7の△は,周囲の脂肪組織と同等の濃度であり腸間膜(▲)と違い血管を認めないので脂肪腫(lipoma)であろう.従って上部空腸の粘膜下脂肪腫による腸重積と診断できる.図2と図3でIVCが扁平化しており,強い脱水を示唆するので24時間で十分な輸液を施し,翌日手術となった.腹膜刺激症状がなく,血便も認めなければ救急手術の適応はない.手術・病理所見:空腸の脂肪腫(submucosal lipoma of jejunum:図A)による腸重積であった.









参考症例(空腸粘膜下脂肪腫による腸重積):51歳男性.腹部手術の既往はない.1年前から時々腹痛を認めていた.1ヶ月前腹痛と嘔吐のため他院に3日間入院した.数時間前から間欠的な上腹部痛と嘔気があり,痛みは今回が最も強い.熱はなく,臍周囲に圧痛を認め,腸雑音は亢進している.図3と図4の白矢印が陥入部で,図4で壁肥厚した腸管内に脂肪組織(腸間膜)が入り込む所見(▲)を認め,腸重積である.図5と図6の↑が原因病変で,上記症例と同様周囲脂肪組織と同濃度を示し脂肪腫と思われる.手術で空腸の腸重積が確認された.図Aが摘出標本で,△が粘膜下脂肪腫.








文献考察1):消化管脂肪腫,発生部位は大腸が最も多く65-75%,小腸20-25%,胃5%
AJR Am J Roentgenol. 2005 Apr;184(4):1163-71.
Imaging and findings of lipomas of the gastrointestinal tract.
Thompson WM. PMID: 15788588

文献考察2):小腸脂肪腫による腸重積,本邦集計37例(表)
腸重積を合併した小腸脂肪腫の1例
  Author:折田創(江東病院 外科), 岩瀬博之, 鈴木義真, 内田陽介, 寺井潔, 渡部脩
  Source:臨床外科(0386-9857)58巻10号 Page1433-1436(2003.10)
  Abstract:84歳男.上腹部痛が出現しさらに嘔吐も伴うようになったため入院となった.入院時,腹部X線像で上腹部を中心に拡張した小腸ガスを認め,腹部CT所見では同心円状の小腸の嵌入を思わせる部位があり,その中に円形の低吸収域が存在した.腹部所見で筋性防御があり,減圧のためイレウス管を挿入して緊急手術を施行した.術中所見ではTreitz靱帯から約20cmの部位で空腸が10cmにわたり重積しており,用手的に整復すると黄色の示指頭大の腫瘤が透見・触知されたため空腸部分切除術を施行した.切除標本では腫瘍は2.0×2.0×1.5cmで,割面は黄色で均一の腫瘤が粘膜直下に認められ,病理組織学的所見から脂肪腫と診断された.術後は特に合併症もなく第21病日に軽快退院となった.成人の腸重積症は比較的稀な疾患であるが,術前の腹部CTにて脂肪腫による腸重積はほぼ診断できることからその診断的意義は高いと考えられた.
追記:本邦集計37例中,男女比は18:19,平均年齢は44.8歳で,50〜70歳代に多い.大きさは平均3.5cmで,2cm以上のものが重積を起こしやすい.Bauhin弁から口側60cm以内に59.5%が認められた.CTによる診断例が増加しており有用である.

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  【参照症例】   1. 右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ5 【症例 RR 24】

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