上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ3 EXPERT COURSE 解答 【症例 EE 15】

胃潰瘍穿通.Penetrated gastric ulcer.








遊離ガスや腹水を認めない.図5〜図8までやや腫大した胆嚢と胆石を認めるので,心窩部痛の原因は胆石発作と診断される症例をよく見かけるが,胆嚢は数時間の絶食だけで腫大するのでもっと重大な他疾患がないか追求することが大事である.図8から胃前庭部後壁が粘膜下浮腫による肥厚が始まり(▲),図13まで及ぶ.図11の白矢印は胃内腔のガスである.他方,図11〜図13のガス像↑は,粘膜下浮腫により壁肥厚した前庭部後壁の壁欠損像,すなわち潰瘍性病変と解釈する.後壁潰瘍にガス像を認めるのは不自然だが,前庭部は虚脱して前後の胃粘膜が接着しているからであろう.遊離ガスや腹水は認めないが,潰瘍性病変より尾側の図14と図15で脂肪組織の濃度上昇を示し(△),胃潰瘍穿通と診断する.筋性防御があるので手術となったが,腹水や遊離ガスを認めず,保存的治療の適応である.前庭部後壁潰瘍が横行結腸間膜に穿通し癒着していた.胃部分切除を施行した.図Aは切除標本の漿膜面で,▲が穿通部である.図Bは粘膜面で,↑が潰瘍.病理:perforation of peptic ulcer,no malignancy.










参考症例(胃潰瘍穿孔):57歳男性.既往歴:9年前十二指腸潰瘍.前日に上腹部痛が出現し,当日腹痛が増強し来院した.体温:36.7℃,心窩部に圧痛がある.腹壁直下に遊離ガスを認めない.図1〜図4までで胃壁に粘膜下浮腫はなく急性病変はない.図5から幽門部の壁に粘膜下浮腫を認め(▲),図6〜図8で浮腫性に肥厚した後壁にガス像と欠損像を認め(↑),図5〜図10では網嚢内に遊離ガスと食物残渣を認め(△),幽門部後壁の潰瘍性病変の穿孔と診断できる.図Aが切除標本.病理:benign gastric ulcer with perforation.












文献考察:胃潰瘍穿孔の保存的治療
日常診療の指針 胃・十二指腸穿孔に対する保存療法の有用性
  Author:大森浩明(岩手医科大学 救急医), 旭博史, 井上義博, 藤野靖久, 入野田崇, 遠藤重厚, 齋藤和好
  Source:外科治療(0433-2644)86巻6号 Page1119-1120(2002.06)
要旨: 胃潰瘍穿孔については,保存的治療は一般的な治療法とされていない.当科で1995年4月から胃潰瘍穿孔全例(連続する5例)に対し保存的治療を行ったが,奏功率は40%であり,しかも重症肝硬変を合併した1例(3日後に手術)は死亡した.治療方針は開腹手術,胃切除を基本とし,保存的治療は患者の希望があり,穿孔径が小さく(内視鏡診断),腹水が少なく,穿孔部に食物残査が嵌入し被覆されやすい状況などの特殊例のみに選択している.保存的治療が奏功しない理由として,十二指腸穿孔と比較し,高齢者に好発するため,合併疾患の併存や発症から来院までの時間が長いこと,正酸・低酸例が多く,そのため細菌性腹膜炎の合併が高いこと(十二指腸潰瘍穿孔例では高酸例が多く,内容物が無菌であることが多い),穿孔径が大きく被覆されにくいことなどが考えられる.
私見:ガストログラフィン造影で造影剤の漏出がなく,腹水が少量であれば保存的治療を試みていい.

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