上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ3 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 13】

十二指腸潰瘍穿孔.Perforated duodenal ulcer.






図1〜図6で肝周囲に遊離ガスを認め(△),図1〜図4で少量の腹水がある(※).図1〜図6の胃は壁肥厚を呈するように見えるが虚脱しているので異常所見ではない.胃に急性病変を示唆する粘膜下浮腫を認めないので図10〜図13の十二指腸に注目する.図11〜図13の↑は球部前壁の壁欠損像と思われ,その周囲壁は軽度だが浮腫性肥厚を示している(▲)ので十二指腸潰瘍穿孔と診断できる.手術で同所見が確認され大網充填術が施行されたが,発症から3時間と経過は短く,腹水量が少量なので保存的治療で成功する可能性は高い.








参考症例(十二指腸潰瘍穿孔):47歳男性.数時間前に急に上腹部痛が出現した.体温:37.2℃,腹部は板状硬で腹膜刺激症状を認めた.
図1と図2で遊離ガス(△)と腹水(※)があり,図6と図7で十二指腸球部は浮腫性壁肥厚(▲)を示し,白矢印が十二指腸内腔だから,浮腫性壁肥厚内の↑は急性潰瘍である.手術で十二指腸球部前壁潰瘍の穿孔を認めた.








文献考察4):保存的治療27例中25例に成功
十二指腸潰瘍穿孔例に対する保存的治療のprospective study
  Author:小川不二夫(帝京大学 外科), 福島亮治, 稲葉毅, 荻原崇, 岩崎晃太, 荒井武和, 安達実樹, 冲永功太
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)23巻6号 Page859-864(2003.09)
  Abstract:自施設では十二指腸潰瘍穿孔例のうち,「重篤な合併症がなく全身状態が安定」「腹膜刺激症状が上腹部に限局」「画像診断上腹水の貯留が少量」「発症から来院迄の時間が12時間以内」という条件を満たす症例には先ず保存的治療を行う方針としている.1996年4月〜2002年10月の患者でこの条件に適合したものが27例あり,うち25例が保存的に治癒した.手術に移行した2例中,1例は来院24時間後も腹膜刺激症状が改善されず腹腔鏡下手術を行ったが,術中所見から保存的治療継続の可能性も示唆された.もう1例は腹膜刺激症状が急速に増強し腹水の増加を認め,アシドーシスも出現したため保存的治療継続は困難と判断し開腹術を施行した.

5)保存的治療37例中32例に成功
胃,十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療法の適応について
  Author:井上暁(東京都立墨東病院 外科), 梅北信孝, 宮本幸雄, 真栄城剛, 田中荘一, 大谷泰一, 斉浦明夫, 松尾聰, 吉田操, 北村正次
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)64巻11号 Page2665-2670(2003.11)
  Abstract:保存的治療成功32例をA群,保存的治療から手術に移行した5例をB群として,胃,十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療の適応を検討した.胃,十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療は,高齢ではない,初診時のCT・USの画像所見で腹水の貯留部位数が2ヶ所以内である,初診後24時間以内に腹部筋性防御の軽快がみられる,経時的に腹水の減少がみられる,場合に成功する確率が高く,条件を満たすことが保存的治療の適応基準と考えられた.

6)保存療法12例,腹腔鏡下手術65例,開腹手術5例の比較検討
穿孔性十二指腸潰瘍の治療法別成績
  Author:津村裕昭(広島市立舟入病院 外科)
  Source:日本腹部救急医学会雑誌(1340-2242)23巻4号 Page575-580(2003.05)
  Abstract:穿孔性十二指腸潰瘍82例の治療法別成績を検討し治療法選択基準について考察した.保存療法(CTr)の適応は60歳以下,リスクなし,発症6時間以内,full stomachなし,CT上の遊離ガスまたは腹水貯留範囲が50mm未満,かつ腹膜刺激症状の限局化した症例とした.腹腔鏡下手術(LC)の適応は重症・重篤基礎疾患例を除外した発症24時間以内,かつ保存療法の適応外症例とした.開腹手術(OC)の適応は重症・重篤基礎疾患例,長時間経過または潰瘍単閉鎖困難例とした.治療法別の手術所見,治療後経過,合併症を検討した結果,重症度に応じて適応を選択すれば各治療法とも安全かつ有効であったが,CTrとLCの適応基準を明確にすることが今後の重要な課題であると考えられた.

7)内視鏡で診断.十二指腸潰瘍の保存的治療の適応は,1.65歳未満,2.腹水の推定貯留量500ml以下,3.穿孔径が5mm以内,4.通過障害を認めない,5.頻回の潰瘍既往を有さない,6.全身状態が不良でない.成功率は88%.
【消化管穿孔の治療が変わっている】 上部消化管穿孔の診断と治療
  Author:大森浩明(岩手医科大学 救急医), 旭博史, 井上義博, 藤野靖久, 入野田崇, 遠藤重厚, 齋藤和好
  Source:消化器内視鏡(0915-3217)14巻2号 Page204-210(2002.02)
  Abstract:上部消化管穿孔において,開腹手術以外の治療選択を有する場合には診断の確定は必須で,緊急内視鏡検査は絶対的に必要である.穿孔性十二指腸潰瘍の正診率はほぼ100%に近いが,胃穿孔では,潰瘍の良・悪性の鑑別が困難な症例が少なからず存在する.穿孔性十二指腸潰瘍に対する保存的治療の適応は若年齢である.腹水量を観察し,減少する場合には保存的治療が奏効する.高齢者や腹水量が増加する例では手術が必要である.腹腔鏡下手術は選択肢の一つであるが,心肺疾患等の併存疾患を有する或いは大きな穿孔を有する例では,開腹手術を行うべきである.基本的には開腹手術を行い胃切除を行うことが最適である.

8)保存療法例34例中4例(10.3%)が手術へ移行した.保存療法の適応:1.最高血圧≧90mmHg(ショックでない),2.白血球数>4000㎣(敗血症による白血球減少傾向がない),3.24時間以内,4.6時間後にCT(またはUS),血液検査により急激な腹水の増加や白血球数減少(<4000㎣)がない.
【消化管穿孔の治療が変わっている】 胃・十二指腸穿孔の治療 消化性潰瘍穿孔に対する腹腔鏡下手術と保存療法
  Author:伊藤重彦(北九州市立八幡病院), 木戸川秀生, 鹿島清隆
  Source:消化器内視鏡(0915-3217)14巻2号 Page218-223(2002.02)
  Abstract:腹腔鏡下穿孔部大網被覆術(腹腔鏡下手術)および保存療法の安全性と有用性を評価する目的で,98症例においてこれら2つの療法と開腹手術を比較検討した.98例の最終治療法は腹腔鏡下手術37例,保存療法34例,開腹単純閉鎖術18例,胃切・迷切術9例であった.初回腹腔鏡下手術,保存療法のそれぞれ10.3%,10.8%が開腹手術へコンバートした.腹腔鏡下手術と開腹単純閉鎖術で手術時間,術後鎮痛薬使用回数,入院期間に差はなかった.非根治療法89例の再発率は20%,再穿孔率は3.4%であった.

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