文献考察:胃アニサキス症
【消化器外科領域の緊急手術・処置】 上部消化管 胃アニサキス症
Author:橋本幸直(島根医科大学 第一外科), 仁尾義則
Source:外科(0016-593X)65巻3号 Page270-273(2003.03)
Abstract:胃アニサキス症の,その特徴及び診断,治療について概説した.胃アニサキス症はアニサキス幼虫による寄生虫感染症で,幼虫の寄生した生鮮魚介類を生食することにより発症する.我が国では比較的多く,激烈な腹痛を伴う消化器症状を示す.病歴,特に食事内容などより本症が疑われる際には,内視鏡検査による虫体の確認や血清免疫学的検査により診断する.悪性腫瘍との鑑別が困難な場合もあるが,内視鏡下に虫体を摘出することにより速やかに軽快する.急性腹症の鑑別疾患として本症を常に念頭に置くことが最も肝要である. 追記:胃アニサキス症はアニサキス幼虫が胃壁に刺入することにより引き起すが,その病態にはアレルギー反応が大きく関与している.初感染すなわち過去にアニサキスに感作されていない場合,単に体内に侵入した異物に対する局所変化を示すのみで,組織学的には死滅した虫体を核とした寄生虫性肉芽腫の形成をみる.臨床的には慢性胃アニサキス症(緩和型)の多くがこの状態と考えられ,ほとんどが無症状に経過し検診や他疾患での開腹時に偶然発見されることもある.
一方,すでに感作されたヒトに再びアニサキスが侵入した場合,アレルギー反応が起り,それによる病態が発症する.胃局所のおもな反応として,とくに粘膜下層に著明なびまん性好酸球浸潤,浮腫,線維素析出を認め,リンパ管や血管の拡張と軽度の出血も加わり,いわゆる好酸球性蜂窩織炎となり,局所の激しい痛みを生じる.これらの炎症性反応はおもにIII型(Arthus型)アレルギー反応によるものと考えられている.臨床的には急性胃アニサキス症(劇症型)がこれにあたり,胃アニサキス症として診断されるもののほとんどがこの病態である.また,全身性には型(即時型)アレルギー反応として,蕁麻疹やアナフイラキシーショックを合併し,ときに重篤化することもあり注意を要する.
原因となる海産魚類は九州や関東地方ではサバ,イワシ,アジが多く,北海道ではタラ,ホッケ,イカ,サケが多いという地理的特徴が強い.摂取から発症までの時間は6時間前後が多く,ほとんどが12時間以内に発症する.刺入部位は穹窿部から胃体部の大弯側が好発部位とされるが,虫体は刺入,脱出を繰り返し,1箇所にとどまるとは限らないため,胃全体をくまなく検査する必要がある.血清免疫学的診断としてELISAキットによる抗アニサキス抗体の測定があり,比較的特異性が高い.一般的な治療法は内視鏡による直視下での虫体の摘除である.
|