上腹部痛(Epigastric Pain)シリーズ1 RESIDENT COURSE 解答 【症例 ER 3】

急性胃粘膜病変(AGML).Acute gastric mucosal lesion.



図1,図2と図3の胃体部に浮腫性壁肥厚などの病変はない.図4〜図7の▲は胃前庭部の全周性の浮腫性壁肥厚を示している.潰瘍を示唆する壁欠損像はなく,急性胃粘膜病変:AGML (acute gastric mucosal lesion)と診断する.図4で前壁に壁欠損像様に見える陥凹(△)は,胃が空虚になっているために生じる襞であり潰瘍性病変ではない(しかし,AGMLに急性潰瘍を伴うことは決して珍しいことではない). 図1の↑は壁の浮腫性肥厚を伴っていないので潰瘍性病変ではない.図Aが内視鏡所見:AGML,胃幽門前庭部全体の粘膜が浮腫性(edematous)で発赤し,凝血塊あり,縦走するビランあり.







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参考症例(AGML):52歳男性.24時間前に上腹部痛が出現し近医受診,内服加療を受けたが改善しないため来院した.図4〜図9で胃前庭部の粘膜下浮腫による全周性壁肥厚を示し(▲),AGMLを強く疑う.翌日(発症後48時間)の内視鏡検査で浅い潰瘍(図A:↑)と軽度の浮腫を認め,治癒期に向かいつつあるAGMLと診断された.










文献考察:急性胃炎・AGML
加藤元嗣,浅香正博:急性胃炎・AGML.消化器疾患診療(財団法人 日本消化器病学会監修,「消化器病診療」編集委員会編集)p76-77,2004年,医学書院.
要旨: 急性胃炎とはなんらかの成因により,胃粘膜における急性の炎症性変化が惹起された状態であり,内視鏡的所見として発赤,びらん,浮腫,出血などの粘膜変化を認める.突発する上腹部痛,悪心,嘔吐や出血などで発症し,内視鏡的に急性胃炎の所見に広範囲のびらん,出血や潰瘍形成を伴う多彩な変化が観察される病変を急性胃粘膜病変(AGML:acute gastric mucosal lesion)という概念で呼ぶことが多い.成因としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)を代表とする薬物,アルコール,アニサキスやHelicobacter pylori菌などの感染,ストレス,放射線照射や内視鏡後のAGMLなど,医原性のものもある(表).薬物治療に良く反応し,予後は良好である.

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