右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ19 EXPERT COURSE 解答 【症例 RE 91】

回盲部子宮内膜症による腸閉塞.Obstruction of terminal ileum by ileocecal endometriosis.








図2〜図4で上行結腸(A)も下行結腸(D)も虚脱しているので,拡張している小腸は”小腸”閉塞によるものと考える.図4の1から拡張し始めており,図の数字順に進展し図2の59となるが,図4〜図10の↑が原因病変のようだ.部位は盲腸か回腸末端であるが,比較的に均一に造影されている.さらに辺縁に不整な所見はなく悪性腫瘍の特徴はなさそうである.手術所見:回腸末端での閉塞を認め(図A:▲),盲腸と回腸末端が一塊の固い腫瘤を形成しており,回盲部切除を施行した.病理:回盲部の子宮内膜症( endometriosis ).線維化が強い.









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文献考察:子宮内膜症(endometriosis)
1) 【子宮内膜症・子宮腺筋症入門】 子宮内膜症
  Author:片渕秀隆(熊本大学 大学院医学薬学研究部総合医薬科学部門生体機能病態学講座婦人科学分野), 宮原陽, 岡村均
  Source:画像診断(0285-0524)25巻2号 Page128-136(2005.01)
要旨:子宮内膜症は,子宮内膜様組織が本来の正常な位置,すなわち子宮腔内面以外の組織や臓器などに,異所性に存在し増殖するために生じる病態をいい,発生部位により子宮筋層内に発生する内性子宮内膜症と,子宮外の組織や臓器に発生する外性子宮内膜症に分けられる.子宮内膜症は一般に進行性の経過をたどる.骨盤腹膜または骨盤内臓器の漿膜面に発生した初期病巣は,卵巣に由来するエストロゲンの周期的分泌に反応して,正所性の子宮内膜と同様に腺管が増殖し,その後の出血と修復を繰り返すことから,周囲組織や深部組織に浸潤して強固な癒着を形成する.

2)回腸子宮内膜症,本邦集計32例(表)
腸閉塞をきたした回腸子宮内膜症の1例
  Author:青柳信嘉(国立精神・神経センター国府台病院 外科), 飯塚一郎
  Source:日本臨床外科学会雑誌(1345-2843)65巻7号 Page1855-1859(2004.07)
  Abstract:腸閉塞で発症した回腸子宮内膜症の1例を経験したので報告する.症例は38歳の女性.平成15年9月上旬,腹痛,嘔吐にて発症,腸閉塞の診断にて保存的治療を受け,軽快退院した.10月上旬,月経が始まった後再び腹痛,嘔吐をきたし単純性腸閉塞の診断で再入院した.繰り返す腸閉塞のため開腹手術を行った.開腹所見では,回腸は末端部から約20cmにわたり捻れるように癒着,短縮し,回腸末端部は固く腫瘤状に触知した.子宮付属器は肉眼的に異常を認めず,回盲部切除とした.術後の病理組織診断にて回腸子宮内膜症と診断された.本疾患は腸閉塞で発症することが多く術前に診断を確定させることは困難であるが,月経に伴う消化器症状の消長により疑うことは可能である.また,近年の報告例が増えつつあり,性成熟期の女性の腸閉塞の鑑別診断として念頭に置く必要があると考えられた.
追記:腸管子宮内膜症は外性子宮内膜症の一つであり,卵巣,骨盤腹膜に次いで多い.腸管子宮内膜症の75〜95%は直腸S状結腸に発生し,小腸の頻度は7%と少なく,そのほとんどは回腸遠位部に発生する.回腸子宮内膜症の特徴は,月経周期に同期した腹部症状の消長と,腸閉塞をきたす頻度が高いことである.

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