右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ5 RESIDENT COURSE 解答 【症例 RR 23】

右卵巣出血.Right ovarian bleeding.







腹腔内血液の濃度(density)は30HU以上といわれ(下記文献),図1の肝臓と脾臓周囲の腹水のdensityはそれぞれ31.5HU,29.3HUで血性腹水である.骨盤腔内に,肝臓周囲の腹水に比べさらにdensityの高い大量の血性腹水がある(※).腫大した右卵巣(図10〜図15:▲)の左側の,図9〜図15の△は動静脈とほぼ同程度のdensityを呈し,造影剤の血管外漏出(extravasation)であり,図Aの術中写真が示すように現在活動的に出血していることを意味する極めて重要な所見である.貧血が進行したので開腹手術し止血した.腹水のdensityは極めて重要な情報であり,腹水を認めたらdensityの計測を必ず行ってほしいものである.








文献考察:腹腔内液貯留のdensity
1)Gore RM, Gore MD. Ascites and Peritoneal Fluid Collections.In:Textbook of Gastrointestinal Radiology.2nd Ed,W.B.Saunders,Philadelphia.1969-1979, 2000.
腹腔内液貯留のCT値.単純腹水:0〜30HU,血液:30HU以上,chylous ascites:0HU,Biloma(血液を含まない,感染していない):20HU以下.

2)Becker CD, Mentha G, Terrier F.
Blunt abdominal trauma in adults: role of CT in the diagnosis and management of visceral injuries. Part 1: liver and spleen.
Eur Radiol. 1998;8(4):553-62. Review. PMID: 9569321
血液:30〜45HU,凝血塊:50〜60HU,あるいはそれ以上.

文献考察:卵巣出血
3)【どこまでわかる?急性腹症のCT診断】 婦人科疾患
Author:安田晶信(湘南鎌倉総合病院 放射線科), 木幡豊
Source:画像診断(0285-0524)24巻5号 Page621-630(2004.04)

4)【救急マニュアル2004】 主要疾患の救急対応 婦人科 婦人の急性腹症
Author:木村文則(滋賀医科大学 医学部産科学婦人科学講座), 竹林浩一, 野田洋一
Source:綜合臨床(0371-1900)53巻Suppl. Page1367-1370(2004.04)

5)女性生殖器疾患のminimum essential】 婦人科救急疾患
  Author:藤井進也(鳥取大学医学部附属病院 放射線科), 木下俊文, 小川敏英, 鎌田憲子, 森岡伸夫, 仙田哲朗, 田原誉敏, 井隼孝司, 中西順子, 小山司, 矢田普作, 竹内薫, 佐藤誠也, 寺川直樹
  Source:画像診断(0285-0524)23巻3号 Page271-279(2003.02)

上記文献のまとめ:卵巣出血には卵胞出血(排卵期),黄体出血と妊娠黄体出血があるが,黄体出血が多い.大多数が黄体期中期(最終月経から20日)に黄体嚢胞の破裂により起こる.性交や内診,外傷などの物理的負荷が発症の成因となる.罹患側は右側に多いが,その理由は左側ではS状結腸が左付属器のクッションとなるためと言われる.診断は画像により子宮付属器周辺の凝血塊,血液貯留を証明し妊娠を否定出来ればいい.大多数が自然止血を期待できるのでvital signが安定しておれば保存的治療が原則である.

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