右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ4 RESIDENT COURSE 解答 【症例 RR 20】

右内腸骨動脈瘤切迫破裂.Impending rupture of right internal iliac artery.






図6〜図10の△は最大径約5cm大(図8)の右内腸骨動脈瘤である.周囲にextravasation(造影剤の血管外漏出)や血腫を認めないので破裂ではない.しかし,腰痛または腹痛を訴え動脈瘤があり,他に腰痛または腹痛の原因を認めなければ動脈瘤の切迫破裂と診断すべきである.図7の↑はcrescent sign(三日月徴候:下記症例参照)であり,切迫破裂を示唆する所見である.

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文献考察:内腸骨動脈瘤,53例の集計
孤立性内腸骨動脈瘤に対して瘤縫縮術を施行した2例 本邦報告例の検討を含めて
  Author:高橋宏明(兵庫県立こども病院 心臓胸部外科), 杉本貴樹, 三村剛史, 北出貴嗣, 西川宏信
  Source:日本血管外科学会雑誌(0918-6778)12巻7号 Page663-667(2003.12)
  Abstract:症例1:66歳男.無症候性血尿を認め,腹部造影CT,血管造影より孤立性右内腸骨動脈瘤と診断し手術を行った.瘤を可及的に剥離・脱転し,瘤より起始する末梢枝を瘤外より3本結紮した.瘤化した内腸骨動脈起始部を含めて,総腸骨〜外腸骨動脈を切除し,端々吻合した.剥離した瘤壁は切除し,残存壁は可及的に縫縮した.症例2:78歳男.突然の腹痛,腰背部痛から一過性の意識消失を来たした.腹部CT,血液検査所見より急性に発症した腹腔内出血と診断し,試験開腹を行った.内腸骨動脈周囲には炎症性癒着が認められ,その周りには血腫が認められた.術中所見より内腸骨動脈瘤からの出血と判断した.内腸骨動脈起始部をクランプし,瘤を切開したところ,破裂孔が認められ,この周囲は腹膜と癒着し,破裂孔は腹腔内に通じていた.内腸骨動脈起始部を閉鎖し,瘤よりの分枝を瘤内より閉鎖し瘤壁を縫縮した.2例共に病理所見では瘤壁には動脈硬化性変化が認められた.いずれも術後経過は良好である.
追記:孤立性腸骨動脈瘤はまれで,腹部大動脈瘤の2〜6%前後で,さらに孤立性内腸骨動脈瘤は全孤立性腸骨動脈瘤の10〜20%を占めるのみである.1970年以降の53例の集計で,年齢は21〜89歳(平均:68.4歳,21歳はベーチェット病が原因),女性は5例のみで圧倒的に男性に多い.53%が破裂または切迫破裂例である.発生部位は両側性が9例,右側が30例,左側は8例と右側に多い.症状は泌尿器症状(排尿障害・水腎症)が11例,消化器症状(圧迫による通過障害・イレウス)が7例,静脈血栓症併発による下肢浮腫が3例,腸管への動脈瘤穿通による下血が6例にみられた.25mm以上の瘤は早期に手術を行うことが肝要である.
  【参照症例】   1. その他シリーズ4 【症例 MR 17】
2. その他シリーズ4 【症例 MR 18】
3. 下腹部痛シリーズ 9 【症例 LR 43】

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