右下腹部痛(Right Lower Quadrant Pain)シリーズ4 EXPERT COURSE 解答 【症例 RE 16】

右総腸骨動脈瘤破裂.Rupture of right common iliac artery aneurysm.








腹部大動脈(aorta)は図13までで,図14にて総腸骨動脈(CIA:common iliac artery)となり左右に分岐する.図2の腹部大動脈は左腎静脈が下大静脈と合流する部位では正常径を呈し、図6から拡張し始める(※).瘤(aneurysm)の定義は正常血管の1.5倍以上の拡張としており図9で完成した瘤となる(図2のaortaと比べ1.5倍以上).図14で分岐した右総腸骨動脈は腹部大動脈瘤から連続して拡張し,図17で最大となり約10×8cmの総腸骨動脈瘤となる.瘤の輪郭は△で囲われた部分で、造影されている※は血流のある血管内腔で、血管内腔と瘤の外縁間の,造影されない均一な低濃度の部分は古い血腫である.さて,腹部大動脈周囲を注意深く観察すると古い血腫よりやや濃度の高い,筋肉組織と同等の濃度の軟部組織▲が認められ,新鮮な血腫と解釈すべきで,すなわち腹部大動脈瘤破裂または右総腸骨動脈瘤破裂と診断される.血流のある内腔と瘤辺縁間の血栓は均一な低濃度であるべきだがこの例では図16〜図19の↑の部分はやや高濃度になっている.これは低濃度の古い血腫内に新しい血腫の形成を意味し,古い血腫内を解離しつつある所見で,三日月状になることが多いことからcrescent sign(三日月徴候)と呼ばれる.この徴候は破裂例の半数程度に見られるが,破裂の所見(周囲の血腫や造影剤の血管外漏出extravasation)が認められない症例においても切迫破裂(impending rupture)を意味する重要な所見である.従って破裂部位は総腸骨動脈瘤であろうということになる.図10〜図12までのIVC(下大静脈)が三日月になっているのは血腫による圧迫か,静脈内血栓かは不明.左側尿管が造影されていない原因は不明. CIV:総腸骨静脈(common iliac vein).手術所見:右総腸骨動脈瘤が後腹膜へ破裂しており(図A:術中写真 ▲は後腹膜の血腫),Yグラフト置換術を行った.













文献考察:腸骨動脈瘤
孤立性腸骨動脈瘤手術例の検討
  Author:佐久田斉(琉球大学 第2外科), 玉城守, 松原忍, 仲栄真盛保, 上江洲徹, 下地光好, 宮城和史, 鎌田義彦, 国吉幸男, 古謝景春
  Source:日本血管外科学会雑誌(0918-6778)8巻7号 Page729-736(1999.12)
  Abstract:孤立性腸骨動脈瘤手術例(9例18病変,全例男)の臨床的特徴を腹部大動脈瘤(AAA)症例(108例,男90例,女18例)と比較して検討した. AAA合併例では31例に腸骨動脈瘤(54病変)の合併を認めた.破裂の頻度は孤立性腸骨動脈瘤では2例,AAA例では12例に認め,うち2例は腸骨動脈瘤破裂であった.手術術式は,総腸骨動脈瘤(8)に対しては,全例に瘤切除と人工血管置換術を施行し,内腸骨動脈瘤(10)に対しては,瘤切除4例,瘤切除及び内腸骨動脈再建2例,流入・流出動脈結紮3例,ラッピングを1例に施行した.手術及び病院死はなく,両側内腸骨動脈を結紮した1例に麻痺性イレウス,他の1例に殿筋跛行を合併した.術後20〜136ヵ月の観察期間にて9例中3例に遠隔期死亡を認め,うち1例は術後26ヵ月に胸部大動脈瘤破裂により失った.孤立性腸骨動脈瘤は比較的まれな疾患であり,同時期のAAAに対する発生頻度は8.3%であるが,瘤径が3cm以下でも破裂例があるので,特に嚢状瘤の場合は積極的な手術が望ましい.内腸骨動脈瘤,特に両側性や下腸間膜動脈閉塞例では内腸骨動脈血行障害に留意すべきである.また他領域の動脈瘤を合併することがあり,全身の動脈硬化性血管病変の検索とともに危険因子の管理,長期経過観察が必要である.
  【参照症例】   1. 下腹部痛シリーズ8 【症例 LR 39】

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