文献考察:腎損傷の治療戦略
1)吉田哲.3.救急処置各論ー8.腎尿路損傷,後腹膜出血.実践外傷初療学,P129-136.2001.永井書店.
要旨:腎損傷の大多数は鈍的外傷である.約1/3は腎単独損傷で,2/3は他臓器との合併損傷である.日本外傷学会の腎損傷分類によってI型からIV型に分類される.I型損傷は腎被膜の連続性が保たれている形態で,画像診断で捉えにくいこともある.II型は裂傷が集合管(collecting system)に達しない表在性の損傷で,尿漏を伴わない.III型は裂傷が集合管に及ぶ深在性の損傷で,離断や粉砕の判別は画像診断で困難なことがある.IV型は腎茎部血管損傷で,IVaは腎動脈閉塞,IVbは茎部動静脈損傷である.
腎周囲の出血は腎筋膜(Gerota筋膜)の破綻がなければタンポナーデ効果によって自然止血することが多い.腎筋膜内圧と動脈圧が平衡に達して止血する出血量は1000〜1500mlとされる.腎筋膜が破綻して後腹膜腔や腹腔内に出血が広がる場合,尿路内に血尿が持続するとき,IVb型損傷では腎単独損傷でも大量出血をきたす.腎組織は自然治癒力は旺盛であるが,仮性動脈瘤を生じて遅発性に破裂することがある.腎機能の回復につれて尿溢流が増すと,2〜3日後に尿嚢腫(urinoma)が形成されることがある.尿嚢腫に感染が合併すると後腹膜膿瘍となり,敗血症に進展する.後腹膜膿瘍は尿管狭窄の原因ともなるので,腎外傷後は尿溢流に注意する.
治療.I型は保存的治療の適応.II型とIII型のうち大量出血を伴うものは手術あるいはTAEの対象となる.大量出血とみなされるものはH3(contralateral pararenal typeあるいはcentral typeの血腫extended hematoma)および一部のH2(腎周囲腔を超え(Gerota筋膜を超えて)血腫が進展しているもの)に該当する腎周囲血腫である.IV型損傷は緊急血行再建術の適応である.腎温存のためのgolden timeは受傷後12時間以内とされる.IVb型による大量出血は諸検査を省略して手術室に直行すべき病態である.TAEは止血に有効であるが,可能な限り区域的に行う.TAEは腎動静脈瘤や仮性動脈瘤の治療にも有効である.
2)【腹部損傷に対する手術 臓器温存・QOLの視点から】 腎損傷に対する治療方針
Author:神嵜清一郎(関西医科大学救命救急センター), 田中孝也
Source:手術(0037-4423)55巻10号 Page1493-1499(2001.09)
要旨:腹部造影CTは可能であればダイナミックCTで,まず血管相を撮影しactive bleedingの有無を確認し,extravasationが認められるようであれば血管内治療の適応である.次に平衡相で損傷形態を判断し,その直後に腹部単純エックス線を撮影しDIPの代用とする.尿漏があれば造影剤の残存が認められるため,造影CT4〜5時間後に腹部単純CTを撮影し尿漏の評価を行う.
I型とII型は原則的に保存的治療,IV型は手術の絶対的適応である.IVa型(腎動脈閉塞)は12時間以内に 血行再建を行う必要がある.III型損傷については,出血や尿漏の広がりにより手術適応を判断する.H3は手術適応だがH2とH1は保存的治療が可能.尿漏に関しては,U3であっても尿管の描出が認められる場合は,ドレナージやステントの留置で保存的治療が可能である.
3)【泌尿器科領域の緊急手術と緊急処置】 腎外傷
Author:中津裕臣(旭中央病院(国保) 泌尿器科)
Source:臨床泌尿器科(0385-2393)58巻1号 Page7-11(2004.01)
Abstract:腎外傷の診断,治療方針について国保旭中央病院で1994年1月〜2003年6月に受診した腎外傷患者105例(I型:58%,II型:19%,III型:20%,IV型:3%)の検討を加えて解説した.腎外傷は若年男性に多くみられ原因は交通外傷,転落・転倒,スポーツ外傷などであった.損傷形式では日本外傷学会分類でI型,II型が77%を占めていた.他臓器損傷の合併は45%にみられた.受傷後早期に造影CTにて損傷程度を判断することが重要であるが,腎外傷は自然治癒傾向があり,出血のコントロールがつけば保存治療が原則と思われ,III型の高度損傷においても,特に合併症を起こさず治療できる.ただし,腎茎部損傷や持続する尿瘤に対しては,適切な時期に手術を行う必要がある. 追記: III型の治療方針. 血腫が傍腎腔まで広がっておれば大量出血が予想されるが,循環動態が安定していれば保存的治療が可能な場合もある.CTでextravasationを認めvital signが安定しておればTAEで腎機能を温存できる可能性がある.保存的治療が12例,腎部分切除が4例,腎摘出が5例,他臓器損傷のため手術適応外が1例であった.
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