外傷(Trauma)シリーズ9 RESIDENT COURSE 解答 【症例 TR 45】

腹腔内膀胱破裂.Intraperitoneal rupture of urinary bladder.













図1で肝周囲に,図3〜図6で低吸収値の腹水がある(↑).実質臓器や腸管,腸間膜に損傷所見を認めない(画像省略).腎損傷がないのに検尿で血尿があり,腹水を認めたら膀胱破裂を疑う.下段の40分後の単純CTで腹水は極めて高い吸収値となり増量している(▲).図20の△は膀胱と連続し,膀胱内の尿と同濃度だから腹水は膀胱から漏出した尿であり,膀胱破裂の診断がついた.手術で膀胱頂部に1.5cm大の膀胱破裂を認め,修復した.









参考症例(腹膜外膀胱破裂):24歳女性.助手席での正面衝突事故で下腹部を強打し,下腹部痛と血尿がある. 図15は造影CT後2時間,図16はさらに6分後の腹部単純写真.








図15で両側性の骨盤骨折(△)を認める.図1でIVCが強い造影効果を示しているので晩期相の造影CTである.図2〜図12の▲は膀胱周囲の腹膜外に漏出した造影剤であり,図1〜図4で腹腔内には認めないので腹膜外膀胱破裂を意味する.図15の2時間後の腹部単純写真正面像では膀胱外の造影剤を認めないが,図16のさらに6分後の斜位像で膀胱外の造影剤(↑)を認め,膀胱破裂が確認された.手術で3cm大の破裂を認め修復されたが,腹膜外破裂は保存的治療が可能である.








文献考察:膀胱損傷
[外科医に必要な重度外傷の初期治療] 外傷の初期治療の実際 腎・尿路系損傷(解説/特集)
  Author:吉田哲(中国労災病院), 松原由紀
  Source:外科治療(0433-2644)86巻4号 Page425-430(2002.04)

 膀胱損傷の大半は,恥骨骨折端による損傷であるが,膀胱充満時に下腹部に外力が加わると膀胱頂部が破裂して腹腔内に尿が漏出することもある.4タイプに分類される.1)膀胱挫傷.膀胱壁の挫傷で,血尿は出現するものの壁の連続性は保たれている.2)腹膜外破裂(extraperitoneal rupture).骨盤腹膜の連続性が保たれ,尿が膀胱周囲の後腹膜腔に貯留する場合で,膀胱破裂の約6割を占める.3)腹腔内破裂(intraperitoneal rupture).約3割を占める.膀胱頂部を被う腹膜の破綻を伴い尿が腹腔内に漏出すると高浸透圧尿による腹膜炎が引き起こされる.4)内外同時破裂.膀胱内外破裂の合併で,約1割を占める.
 診断には逆行性膀胱造影が有用である.2〜3倍に希釈した水溶性造影剤150〜300mlを透視下にゆっくり注入し,正面および斜位像を撮影し,造影剤排泄後の膀胱像も評価する.
 腹腔内破裂は手術の適応である.腹腔外破裂は10日間前後バルーンカテーテル を留置して保存的に治癒しうる.尿溢流に感染を合併した場合はドレナージの適応となる.

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