外傷(Trauma)シリーズ7 EXPERT COURSE 解答 【症例 TE 35】

空腸刺創・刺創部ヘルニア嵌頓.Stab wound of jejunum・incarcerated hernia through stab wound






図2と図3で肝周囲に相当量の遊離ガス(G)に加えて腹水(※)があり,消化管穿孔の可能性は極めて高い.図5〜図7の↑が図1の刺創3で,周囲に皮下気腫を伴う.図7と図8の△が刺創4から腹腔外へ脱出した腸管だが,図8〜図10で虚脱した小腸(SB)があり,図8でそのとなりの拡張した小腸1は→図9の2→図10の3〜図4の34と進展するので,刺創部でのヘルニア嵌頓による小腸閉塞である.手術で約10cm長の空腸が図1の4の刺創部でヘルニア嵌頓を起こし,口側の空腸が拡張していた.嵌頓部で貫通創(図A)での嵌頓によるうっ血を認め約10cmを切除した,穿孔部がヘルニア嵌頓を起こしたために最小限度の腹腔内汚染にとどまった症例であった.










以上の症例と文献から鋭的腹部損傷のmanagementをまとめると,
 手術適応.1:初期治療で輸液2000ml以上を投与しても血圧不安定,または持続する出血,2:腹膜炎(刺創部から離れた部位で腹膜刺激症状),3:血便または直腸診で肉眼的に血液を証明,4:吐血またはNGチューブから血性の排液,5:刺さったままの凶器が腹腔内に達する,または腹腔内に残存した凶器,6:環納不可能な脱出した腸管.
 手術適応がなければ造影CT(できればdouble phase)検査を行う.→7:腸間膜からのextravasation(実質臓器,後腹膜や骨盤腔内はTAE),8:消化管穿孔(下記:TR11の解答欄から再掲),9:横隔膜損傷(後述).
 造影CTで手術適応の所見はないが腹部臓器損傷を完全に否定できない(遊離ガスだけ,液貯留だけ,腸管壁肥厚と液貯留,腸間膜の濃度上昇)場合,4〜6時間後に造影CTを再検する(Triple-contrast CTも考慮する).

消化管穿孔のCT所見.1:腸管壁の断裂像(bowel discontinuity),特異度(specificity)は高いが陽性率(sensitivity)は低い.2:遊離ガス(extraluminal air,pneumoperitoneum),陽性率は意外と低く50%前後.特異度は高いが,消化管穿孔以外の原因もあり慎重な臨床的判断を要する(後述).他の所見が複数加われば消化管穿孔の可能性は100%に近い.3:壁内ガス(intramural air),陽性率は低いが特異度は高いとの報告がある.4:経口的に投与した造影剤の腸管外漏出(extraluminal oral contrast material),または腸管内容物の腸管外漏出.特異度は最も高い(100%)が,陽性率は意外と低く(19〜42%),時間がかかる,麻痺性イレウスの症例が多い,誤嚥の可能性などから敬遠されつつある(後述).5:腸管壁肥厚(bowel wall thickening).直接打撲,腸間膜損傷による虚血または静脈還流障害によるものとされる.陽性率は70%前後.連続2スライス以上で3,4mm以上を壁肥厚とする文献が多いが,腸管の拡張度に影響を受けるのでそう単純ではない.「ある程度の内容物を含み(虚脱していない),厚さが4mm以上で,周囲の正常な腸管より明らかに壁肥厚を呈する」が適当な読影の仕方と思われる.壁肥厚だけの単独所見は特異度は高くなく,液貯留(腹水)や遊離ガス,腸間膜の濃度上昇があれば消化管穿孔の可能性は極めて高くなる.6:腸間膜の濃度上昇.infiltration(境界不鮮明な濃度上昇),stranding(steaking:スジ状の濃度上昇)などと呼ばれ,血腫,腸液あるいは炎症性の反応を反映するといわれる.70%前後に認めるが単独では特異度は低い.7:腸管壁の濃染(bowel wall enhancement).定義は「腸腰筋より濃度が高い,または周囲血管と同等な濃染」.特異度や陽性率,消化管穿孔の診断上の価値は不明.8:液貯留・腹水(unexplained free fluid:実質臓器損傷を認めないが液貯留・腹水がある).陽性率は高く特異度は低いが,小腸間や腸間膜間に存在するものは消化管穿孔や腸間膜損傷を示唆する.

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