文献考察:腹部刺創
当麻美樹:刺創・切創,実践外傷初療学(編著:石原晋),p289-313,2001,永井書店 要旨:外傷は鈍的外傷(blunt trauma)と鋭的外傷に大きく分類され,鋭的外傷には穿通性外傷(penetrating trauma)と非穿通性外傷(nonpenetrating trauma)がある.刺創(stab wound)とは包丁やナイフなど先の尖った刃物やアイスピック,釘,針,ガラス片などの刺入により生じた創である.凶器が刺入されたまま搬送された場合には,非穿通性損傷が明らかな場合を除いて,凶器を抜去してはならない.これは,凶器によりタンポナーデされていた出血が抜去を契機に再出血する可能性があるためで,出血に対応できる体制のもとで手術室で直視下に抜去することを原則とする.刺創では実質臓器損傷や腹部血管損傷による腹腔内や後腹膜腔への出血と,管腔臓器損傷による汎発性腹膜炎が主病態となる.手術適応:1.vital signsが不安定(fluid resuscitationに反応しない出血性ショック),2.管腔臓器損傷,3.横隔膜損傷,4.還納不可能な臓器脱出や脱出臓器が損傷されている場合,5.凶器の残存.明らかな手術適応がなければ局所麻酔下に創検索(local wound exploration)を行い穿通性の有無を診断する.創検索で穿通性損傷と診断されてもすべてに手術適応があるわけではなく,臨床所見と各種画像診断で陽性所見を欠くときは経過観察をすることもある.刺創部より脱出した大網や腸管の還納が容易で,ほかに手術適応となる損傷がない場合は還納し経過観察を行うこともある.刺創では開放性損傷となるため,遊離ガス=管腔臓器損傷とはならない.刺創路造影の診断的意義は少ない.診断的腹腔洗浄(DPL:Diagnostic Peritoneal Lavage):臨床所見や画像診断でも管腔臓器損傷の診断がつかないときにはDPLを行う.温生食または乳酸リンゲル液1000ml注入後の回収液中RBCが100,000/mm3以上,WBCが500/mm3以上を陽性とする.
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